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価格破壊 (角川文庫)

価格: ¥580
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川書店
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草創期のスーパーの苦闘を描く痛快な経済小説 ★★★★★
経済小説の泰斗、城山三郎氏の佳作。
「外食王の飢え」で外食産業の草創期を描いて見せた著者が、本書では流通業、すなわちスーパーの草創期を、ひとりの創業者を通して描きます。
主人公は戦時中、フィリピンで死線を彷徨った矢口。一度死んだ身という覚悟が彼を怖いもの知らずの流通革命へと導いていきます。それは、メーカーの立場が圧倒的に強い時代にあって、「価格は買い手が決める」「メーカーではなく消費者の利益を」という高い理想に拠ってたっており、あたかも戦後の豊かな社会に貢献しようという高邁な思想にも受け取れます。
明確にはされておりませんが、モデルはダイエーの中内功さんといわれています。流通業の発展に寄与し、消費者と社会に便益に多大なる便益をもたらした功績は認めざるを得ないところで、フィクションとはいえ、創業当時の苦闘ぶりが想像できる内容でした。
ところで、時代がずーっとくだって世の中が豊かになったこんにちでも、価格破壊が続けられていますが、安ければそれでいいのか?という疑問は常に感じています。メーカーが暴利をむさぼるならいざしらず、その製品の価値に見合う値段以下で無理やり販売する手法が横行しているように思います。こんにちの価格破壊は本書で描かれるそれとは全く異質の程度の低い行為であることを分かってもらいたいところです。
品がある ★★★★★
モデルがダイエーの中内さん(もちろん倅連でない)だそうですが、大創業者・大経営者としての彼のエゴも信念も飾り気は無いが品のある文章で丁寧に描かれていて獲るところが非常に大きく、また読中読後と爽やかな満足感に浸ることができ充実した時間を過せました。作品内で近年のダイエーの凋落を匂わせているのも鋭い。

いわゆる経済小説が大企業や政治家や官僚の汚い部分の暴露を売りにして、どこか幼い勧善懲悪主義(胡散臭い)であり、手抜きの演歌のような質の悪い脂臭い文章なのと比して、その分野のパイオニアと呼ばれながら彼の作品は一線を画していると思う。

彼の作品の主人公は美しく描かれているとする向きもあるようですが、そういったことを警戒する気持ちを持ちつつ読むのが元々の自分の読書なので、確かに「うーん、ほんとにそんな清廉な人だったんかいな」とか気になる描写もありますが、それは部分的なものだと考えます。「流通対製造」という面で言えば、著者は主人公の側の流通の値下げ攻勢を支持しつつ、私のような読者でも普通に読めば大流通チェーンの限界も各メーカーの事情も嗅ぎ取れるように構成されていると感じる。

しかし本作の主人公然り「偉い人」ってのは、賢いだけでなくホントによく動きますね。打算と怠慢の闊歩する現代に生きる私としては、骨を折ることを損と思わないほんの少し前の時代の人のハングリーさに身をつまされる思いがした次第。

あと、私が読んだ頃の装丁は女性の顔が描かれたカップ酒のポスターみたいな代物だったが、きちんとしたモノになって本書をこれから手にするという方は良かったですね。当時の装丁はどうしてああいうことになっていたのだろう角川・・・。まぁいいか。
わが安売り哲学 ★★★★★
第2次世界大戦、生き地獄であったフィリピン戦線から奇跡的に生還した矢口。

マラリヤや赤痢にかかった戦友達が、薬不足を原因に死んでいくのを目の当たりにした経験から、「できるだけ安く豊かに薬が手に入るような世にしたい」と、サラリーマン生活に終止符を打ち、消費者に喜ばれる「安売りの薬屋」として身を起こす。しかし、そこには巨大製薬メーカーを中心とした流通機構、再販制度による価格統制という大きな壁が立ち塞がっていた。

本書には、「流通革命による消費者主導の時代」を志し、既存の大企業を相手取って、価格破壊を武器に数々の困難や試練を果敢に乗り越えていく矢口の姿が鮮やかに描かれている。そのモデルは、ダイエーの中内功ともされ、もはや過去のものとなってしまった。しかし、戦後の焼け野原から立ち上がり、一代で巨大流通企業を築き上げた、その起業家精神からは、現代にも学ぶべきことが多いのではないか。
「現在」を生み出した戦中世代の奮闘記 ★★★★★
橋本治『貞女への道』で、

或る男女の例をあげて、

”男は女の夢をかなえてあげることができなかった・・・

そのかわりに、男は、世の中というものに夢をプレゼント

してあげた。・・・今の世の中が、

そういう男の子達のロマンチシズムの上にある、

とはそういうことなんです。”

と述べていることを思い出しました。

私達が普通のものとして見ている景色や

享受している豊かさや便利さは、

前の世代の人々のロマンと奮闘の末に

訪れたものであることを、考えさせられます。

ダイエーの経営破綻に始まり、数々の疑惑で

すっかり悪者にされてしまった中内氏ですが、

歴史の中で、彼が成し遂げたことに関しては

冷静な判断をするべきであろうと考えます。

先人が作り上げてきたもの、そして

破壊してしまったものについて考えるとともに、

これから私達が何を作っていくのかということも

考えていかなければならないでしょう。
札束で日本の良心を殺し尽くした人 ★☆☆☆☆
  読み終わり,深い絶望感にさいなまれています。

  ここで描かれている男は戦争から何を教訓化したのでしょうか。
  戦争を戦後の平時の一般流通過程に持ちこんでいるだけです。敵と見たてた製薬会社,零細小売業者,専門店の良心的な人々が負けていく,文字通り死んで行くのに何の感慨も持たない。
  仕入れ業者が1円で苦しんで値上げを要求しても飲まない破廉恥漢に成り下がっている。
  札束という大砲や機関銃よりも有効に人を殺せる武器を振りかざして次ぎから次ぎと相手を殺していく。そして共に戦っている仲間とも言える仕入れの人々さえ,切り捨てる。
  おぞましい限りの殺人図である。戦争中でさえ,倒れている戦友がいたら自分の生命の危険も顧みず肩を貸し,手を携えて逃げるのが勇気ある行為ではなかったのか。この主人公は戦争よりひどい悪逆非道を平時に平気で行っている男である。

  製薬会社は本来消費者の敵でしょうか。消費者を喜ばせるという目的だけで買い叩いていいものでしょうか。

  おぞましいほどこの小説には生産者の創造性と新薬製造にかける研究者のひたむきな努力が,またその基礎における野口英世が自宅に帰っても台所で試験管を振った情熱と真摯な態度に対する人間的な尊敬が微塵もありません。唾棄すべきひどい主人公です。

  こんな男を描いた城山氏はすごいといえるのでしょうか。文庫版に出ている小松伸六氏が主人公の矢口を「情熱の権化」の「救済者」と肯定しているのは情けない。

  戦後のアメリカから始まった大量生産・大量消費のこの無残な「戦争」は今の日本では都市構造の破壊、社会の破壊,「もったいない」「安物買いの銭失い」という美徳・賢い生き方の破壊を経て、人間の破壊に行きついたと思います。

  その根底には流通過程のあらゆる場面でのスーパーの無法を放置したことに大きな責任があるように思えてなりません。

  町の零細小売・専門業者は公正な競争の埒外におかれ殺されたのです。