守り、そして攻めた寄席の大御所の貴重な記録
★★★★★
新宿末広亭の席主北村銀太郎と聞いてまず思い浮かべるのは、昭和53年の三遊亭円生
一門の落語協会脱退事件で果たした役割である。円生は一門に加え、古今亭志ん朝、
橘家円蔵(七代目)と弟子の円鏡(当時)などと三遊協会を設立し、落語協会と
落語芸術協会に対抗する第三の勢力として都内の寄席を十日づつ交互に受け持つと
いう提案をした。鈴本を含む他の寄席がこの提案に肯定的だった状況で、末広亭、
いや北村のみ断固として三遊協会を認めなかった。そして北村席主の決定そのものが
歴史となり、円生一門以外は落語協会に戻り、これまた北村銀太郎の意向のままに、
志ん朝や円鏡には何らお咎めがなかった。彼がなぜそれだけの力を持ち得たかが、
本書を読めばよく分かる。北村翁の名人論、柳橋や左楽との深い交流なども読み応え
がある。明治から大正、そして昭和に至る東京の落語界の一方の当事者であり実力者
であった人の生々しい語録である。おもしろくないはずがない。