読まずにどうこうできるか?
★★★★☆
『最後の吐息』です。『紅茶時代』を併録しています。巻末解説は堀江敏幸。
いずれの作品も、ラテンアメリカらしい、濃厚なグアバの匂いがむんと漂う官能の陶酔に満ちている感じがします。
難解な作品ですが、一言で言えばそれにつきますね。
で、ガルシア・マルケスや中上健二へのオマージュ作品となっています。できれば『百年の孤独』あたりを読んでから本作品に取りかかった方が良いかもしれません。
表題作は、冒頭で主人公がまだ読んだことのない作家が死んだことを新聞で知ることから始まります。ひねくれてるなー、という感じもしますが、そこから手紙が始まり、変貌のきっかけとなります。
よくよく考えてみれば、メキシコに行ったことが無い人でも、本作品を読んでメキシコの鮮烈な愉悦の雰囲気を味わったりするのは、読まずにオマージュと似たようなものかもしれないと思ったりもしました。
↑というわけで、本作品を読まずにこんなレビューをぶちあけてみました。オマージュだと思ってください。
「百年の孤独」に対する一つの返答
★★★★☆
『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、『目覚めよと人魚は歌う』で
三島由紀夫賞を受賞し、『ファンタジスタ』に収録されている「砂の
惑星」で芥川賞候補にもなった作家・星野智幸の文藝賞を受賞したデ
ビュー作です。
メタフィクションの構造で語られる一つの濃密な物語。それは、ラテン
アメリカの作家ガルシア・マルケスの言わずと知れた大傑作『百年の孤
独』に対する一つの返答なのかもしれません。
「物語るために私は生まれてきた」とガルシア・マルケスは言いましたが、
この小説の主人公は何かを物語ることで自らがその物語を語るための活字
になろうとします。自らが文字となって、「最後の吐息」という物語を形
成していくのです。