本書の特徴は、(1)分散や相関係数などの主な統計概念をベクトルや行列を使って定義している、(2)入門書ながら、よく使われる多変量解析手法を網羅している、(3)普通の教科書には書いていないような実際上の話が盛り込まれている、ところだと思う。
(1)は線形代数を学んだ人には簡潔でありがたいが、学んでいない人にとっては逆にわずらわしいかもしれないし、解析手法の解説にもそれほど活かされているわけではない(例えば、固有値・固有ベクトル)。(2)はありがたいが、手法によって解説の詳細さにムラがある(例えば、コレスポンデンス分析と数量化III類はあっさりしすぎている)。本書の最大の売りは(3)だと思う。実際に分析する際のポイントが網羅されていて役立つ。
したがって、多変量解析を使ったことはあるが、あまり経験を積んでいないユーザには非常によい本だろう。逆に、多変量解析未経験者が最初の一冊として読むには、少し高度な内容だし癖がありすぎる。個人的には、同じようなコンセプトの本なら、大野氏の『多変量解析入門』(同友館)のほうがお気に入りだ。