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NASAを築いた人と技術―巨大システム開発の技術文化

価格: ¥4,410
カテゴリ: 単行本
ブランド: 東京大学出版会
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技術経営の観点からもおすすめ ★★★★★
NASAという巨大な組織における研究開発を通じてみる組織論の本.特にNASAの主要な研究所それぞれの研究スタイルについて描写する.

この本で最も興味深いのは,中央の官僚組織であるNASAの本部とそれぞれの特色を有する研究所の組織運営上での軋轢だ.すなわち,官僚組織として開発の標準化・ドキュメント化,管理責任の明確化を進めるべきとする本部の要求に対する,これまでに築いてきた独自のスタイルを守べきとする研究所の対立である.

たとえば,サターンロケットを開発したマーシャルでは,閉じたコミュニティにおけるメンバ間の信頼や相互理解に基づいたマネージメントが行われていた.これはドキュメントをベースとするNASAの官僚組織とは対立する.これは特に設計変更という重要な場面では,クリティカルな役割を演じることになった.

また,カリフォルニア工科大学に設置されていたジェット推進研究所(JPL)では,母体が大学であるため,大学人としての価値観を大切にした.たとえばJPLでは個人の裁量が大きく,組織としての規律や画一性を嫌った.そして,ありきたりの研究を嫌い,リスクの大きい未知の領域を切り開こうとした.このような規律に賭けた学術的な雰囲気は,大規模プロジェクトの実施に当たって,NASA本部が許容できるものではないことは明白だろう.

そして,最も興味深い対立のひとつが有人宇宙船センタのそれだろう.有人宇宙船センタは元々公の機関として航空を研究していたラングリーに,産業界でミサイルの開発を行っていた技術者たちが合流してできた組織だが,ここではアポロ計画において実際に飛行士が乗り込むアポロ宇宙船の開発を行っていた.

宇宙船はロケットや衛星の開発とは異なり,人間が直接操作する.ここで,'人間'の取り扱いの価値観の違いが大きな対立となった.すなわち,元々航空を研究していたラングリー側の人間は,宇宙船を人によって息を吹き込まれる機械とみなしていたのに対して,ミサイルの開発を行っていた側は,宇宙船を人と機械の分業的なシステムとみなしていた.前者の立場であると,人間は部品ではなく開発の中心とみなされるのに対して,後者であると人間は部品のひとつに過ぎなくなってしまう.この価値観の対立はアポロ宇宙船の設計でもしばしば問題となった.そして,この価値観の違いは組織のあり方にも影響する.すなわち,組織を人の集まりと見るか,システムとして見るかの違いにつながるのである.

結局のところ,各研究所は少しずつNASA本部の管理を受け入れる方向に進む.しかしそれは,スムーズではなく様々な対立と試行錯誤の上に進められたものであった.巨大なプロジェクトの進行にあたり,システム工学的管理を求めるのは仕方のないことである.しかし,システムに頼ると画一になり,新たな文化や技術の芽を摘みかねない.

どのような組織であっても,NASAで見られたような対立は避けがたく,結局,解は試行錯誤的に見るつけるしかないと思われる.本書は組織について述べた本であるが,技術経営としても優れた本であろう.
システム工学の歴史的意義を問う力作 ★★★★★
アメリカと日本における宇宙開発の歴史を題材に、巨大プロジェクトにおけるシステム工学受容の歴史を論ずるだけでなく、その歴史の分析を通して一般社会においてもあまねく存在する「個人の尊重」「組織の統率」といった社会学的問題をも提起しています。技術のディテールにも踏み込んだ幅広い分野の参考文献に象徴される著者の豊富な読書量と関係者への精力的なインタビューとが培った深い洞察力がこれらの問題を明快に論じていて、300ページを超える分量も全く飽きさせません。システム工学が「IT化」という形態で我々の社会生活の隅々にまで浸透しつつある現代において、本書の提起した問題は今改めて問い直されるべきと考えます。科学技術史の専門家だけでなく、技術開発やシステム構築などのプロジェクトにおけるリーダー・マネージャーといった方々、さらには小生のような市井の科学技術愛好家にも一読をお薦めします。
感心させられました。 ★★★★★
とても良い工学書です。近年の巨大システム工学の問題点を見事に浮き彫りにしています。
そこで描かれるのは、人です。経験です。知識です。見識です。政治です。信念です。
簡単に扱える代物ではありません。
システムが巨大になりすぎた故の苦悩。あの当時はアメリカはとても元気で若かった事も
よく判ります。

NASAという巨大なシステムがどのように作り上げられ、どのような歴史があったかを知る
だけでなく、巨大システムを構築するに当たっては当然起こりうる事のおおよその事が網羅
されています。

理工学書というより学術書に近いのかもしれません。。。が頷ける箇所が多々あります。
著者の鋭い視点には驚かされます。