柳田国男の山人への視線について
★★★★★
河童や座敷童子で有名な「遠野物語」は宮沢賢治の童話のイメージと相まって、「懐かしくも美しい東北の自然と幻想」といったイメージをかき立てるようだ。(実際そのような「まち起こし」が現地では盛んである。)だが、実際にこの岩波版に収まっている「山の人生」「山人考」と一緒に「遠野物語」を読むと、そのようなスタジオ・ジブリ的お伽話へのセンチメンタリズムではなく、「常人」の文献に書かれた「日本史」から漏れた「山人」達が鬼や山姥、河童等に読み替えられたという視点から、日本史を民俗学的に再構成しようとした意図と熱意がかなりストレートに伝わってくる。なので、この本を読みながら遠野を歩く場合、奥深い山々を見ながら「山人」達のかつての暮らしぶりに思いを馳せるような民俗学/歴史ロマン寄りの旅の方が僕にはシックリくる。実際、本書所収の桑原武夫の文章(昭和12年発表)や「遠野物語」に触発されて同名の写真集(昭和51年発表)を出した森山大道によると、彼らが現地を訪れた頃には、既に現地民は本書に書かれた民話の地名すら知らなかったという。「遠野物語」がツーリズムに利用されて読み方が変わるのは、地方観光ブームが起きた昭和の終わり以降ではないか。
さて、著者が語る「山人」や妖怪等には、大和朝廷以前から山岳地に残っていた狩猟系民族であったり、精神疾患者、奇形の子供等などが含まれている。こういった農村共同体からはみ出て暮らしていた人々、暮らさざるを得なかった人々への哀れみや温かい視線が本書の文章の端々から感じられる。勿論、柳田の山人理解やイデオロギー性が現代の民俗学では批判の対象になっている訳だが、それでも僕は本書の一番の味わいどころはこの温かさにあると思っている。
遠野物語は炉辺談義
★★★★☆
作者が遠野出身の青年の話しを書き取った形式になっており、有名な「座敷わらし」や「河童」の話は、おのおの2編くらいしか書かれていない。小生の実家は遠野から南に30キロ離れたところにある所為か、似たような話しがでてくるようだ。出がらしのお茶としょっぱい漬物で炬燵を囲んで噂話に興じている近所のおばさんたちと母の雑談を聞いているような感じがする。あまり、ロマンチックな話しを期待しないで、おばさん連中の茶飲み話の延長として読めば期待はずれしないだろう。
精霊に出会ふ道−−『遠野物語』と宮沢賢治を生んだ岩手の自然
★★★★★
皆さんは、遠野の自然が、どんなに美しいか、知っておられるだろうか?−−私が、初めて遠野を訪れたのは、1976年(昭和51年)の夏の事であった。夕方、誰も居ない五百羅漢を訪れ、それから、宿に向かふ野道を歩いた時、「日本にこんな場所が在るのか。」と思った事が、今も忘れられない。以来、私は、何度も遠野を訪れ、遠野の自然の美しさに、魅せられ続けて来た。
遠野は美しい。特に、秋から冬にかけての遠野周辺の自然の素晴らしさは、言葉で表す事の出来無い物である。誰も居ない晩秋の山道で、風がごうごうと鳴り、その音の中で、落ち葉が踊り、頭上を雲が流れて行く光景を見ると、宮沢賢治が描いた岩手の風景が、創作ではなく、リアリズムであった事に気が付く。そして、そこで数多くの精霊に出会ったと言ふこの本(『遠野物語』)の伝説が、現実の事の様に実感されるのである。
『遠野物語』を読んだ人は、是非、遠野を訪れて欲しい。−−秋から冬をお薦めする。−−そして、是非、遠野周辺の人気(ひとけ)の無い山を歩いて欲しい。そうしたら、山の木々が風に鳴る音の凄さと、その風に空を流れる雲の美しさに、言葉を忘れる筈である。そして、その誰も居ない山道で、『遠野物語』の伝説が、そこで起きた現実の出来事としか感じられなく成る筈である。
(西岡昌紀/内科医)
絶好の遠野観光ガイドとして利用したい本です
★★★★★
「遠野物語」本文は65頁に過ぎないが,文語体であるため,読みやすいとはいいがたい。が,1話1話が独立した短い話なので,サムトの婆の話(8話),郭公と時鳥の姉妹の話(53話),オシラサマの起源の話(69話)など有名なところを摘み読みしてみれば,遠野物語の豊穣な世界の一端を堪能することができよう。
基本的に実話(として語られている話)なので,遠野及びその周辺の具体的な地名が出てくる。82〜83頁に略図があるが,できればもう少し詳しい地図を用意して,どの場所での話かを追っていくと,なお理解が深まると思う。そうやって地図で確認しながら読んで,実際に遠野市に行ってみると,物語世界に直接触れることができたような気持ちになった。
さすがの傑作
★★★★★
『遠野物語』と『山の人生』が一冊にまとめられている。正直、この組み合わせはどうかと思うが、題材的には近いということなのだろうか。
『遠野物語』はさすがに面白い。日本の民俗学の原点を見る思いだ。これだけ面白い本だったからこそ、日本民俗学の交流が起こり得たのだろう。わずか80頁の著作だが、読み応えがあった。
『山の人生』は、素材を集めただけといった感じで、充分な整理・論究に欠ける。物語としても研究としても中途半端である。柳田の方法論を透かし見るという意味では興味深い。
白木しらたま
★★★★☆
現在の岩手県遠野市は、以前は山にかこまれた山間隔絶の小天地だった。民間伝承の宝庫でもあった遠野郷で聞き集め、整理した数々の物語集。日本民俗学に多大な影響を与えた名作。(解説より)◆1912年に発表された説話集、今からたったの100年前…これは本当に読んでびっくりしました笑。1871年断髪令、ちょうど文明開化のころに今市子の百鬼夜行抄の世界を地で行く人々がいた(!…こちらが先ですが笑)純粋に怪談としても楽しめます。
子犬堂本舗
★★★☆☆
折口信夫と並ぶ日本民俗学の祖、柳田国男の代表的な著作。岩手県遠野地方に伝わる民話・伝承の類を聞き集めて纏めた「遠野物語」と、紀記神話における国津神=日本先住民であると柳田が考えた(後に皇国史観との兼ね合いから変節)「山人」に関する伝承とそれに対する自らの考えを論じた「山の人生」の二部構成。柳田の論自体は現在では否定的に捉えられているようだが、世田谷区代田の地名が「常陸国風土記」等に見る『だいだらぼっち』に由来するなどの「読み物」としてはなかなか面白かった。
本の店
★★★★☆
「遠野物語」は有名ですから、一度読んでみようか、と手に取ったのですが、これが面白かった!シンプルな文体で淡々と”採録”された伝承民話は、そんな抑えられた文体でも十分に遠野地方の空気・民俗を伝えてくれました。
それ以上に私にとって興味深かったのが「山の人生」。全国に伝わる山人/山姥/天狗などの山の暮らしに密着した言い伝えの考察です。それら”異界の住人達”を通して、かつての日本人の精神性というか、物の味方・考え方などに想いを馳せてしまいました。
表題になっている上記2編の他に、著者による講演の手稿「山人考」を収録。ここでは日本の先住民族にまで話が及びます(笑)。
「山の人生」がかなり気に入ったので、星は4つにしました。
超Q堂
★★★☆☆
読み始めて思ったのは、これって古典?っていう驚きでした。でも、ゆっくり読んでいくにつれ、不思議な世界に触れる喜びを知り、飾らない文体にも惚れこみました。これも、大学生以上にお薦めします。