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どん底の人びと―ロンドン1902 (岩波文庫)

価格: ¥798
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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なんというか… ★★☆☆☆
ここのレビューを読み、この度の重版を心待ちにしていたのですが、同じ題材でジョージ・オーウェルの「パリ・ロンドン放浪記」を
読んでいたせいか、ガッカリ感がすさまじいです。スパイク(浮浪者収容所)に行っても、出された食事が
不味くてとても食べられないからといって他人にあげてしまうし、救世軍でもらった朝食も他人にあげてしまう。
挙句の果てはスパイクの労働からも救世軍の礼拝からも途中で逃げ出しちゃう始末。職を失った文無しの男という設定で潜入しているんですから、何であろうと食べ、こなさないと意味がないですよね。
しかも逃げ出す際に「この後すぐに職探しをしなければならないため(本当は職探しなどする必要はないのだが)」と
関係者や自分自身に言い訳しておきながら、いざ脱出が成功すると「飢えた男だって日曜までは職探ししないだろう。それに私は一晩中歩いていたし、飯をもらうのに半日費やしたからこれでいいではないか」と言って、バスで部屋に戻り、風呂に入って、
綺麗なシーツで15時間ぶっ通しで寝て、たらふく食べて…。一日の数時間、浮浪者の振りをし、たとえ嫌になっても家に逃げ帰れば人並みの食事と暖かい風呂が待っているのなら誰にだって出来ます。他にも、もしものときのために金貨をシャツに縫い付けるんですが、それも知り合った浮浪者に飯をおごるために使ってしまいます。結局、逃げ道があるから緊張感もないってことでしょうか。紹介文では『ロンドンのイースト・エンドの貧民街に潜入したジャック・ロンドンが「心と涙」で書き上げたルポルタージュ』なんて大げさに書いていますが、結局金に余裕のある文筆家(自然主義作家で、ロンドンへ行く前にわずか24歳の若さで売れっ子作家の仲間入りを果たしました)がお遊びで少しの期間、貧乏暮らしごっこをしただけです。
これを読むならオーウェルを読みましょう。あっちの方が本格的な貧乏暮らしですし、
約3年と長期に渡っていますのでルポルタージュとしても段違いに深いです。それに彼を取り巻く人物も彼自身もとても魅力的で、単純に読み物としても面白いです。ただ、救世軍での写真だけは良かったです。
トリコじかけのロンドン ★★★★★
 「下層社会」などという言葉が叫ばれる今だからこそ、この約百年前のロンドンの貧民街のルポルタージュは読まれる価値があります。

 そこにあるのは劣悪な居住環境、低賃金かつ過酷な労働、崩壊した家族、形ばかりの貧民救済策。そして何よりも人の心の荒廃ぶりです。
「貧しくても心は豊か」などというのは嘘です。貧しさは人の心を荒ませ、無気力を招き、それがさらに人々を貧しさから抜け出せない理由となっています。作者は判断の尺度として、「生きている喜び、肉体上および精神上の健全さ」をあげていますが、そうだとすればここにあるのは「絶望」のみであります。しかしそれでも、ロンドンはそれに正面から向き合い、そしてこう言ったに違いありません。

 「でも、やるんだよ!」

 ここであげられた下層階級の姿は、決して今の日本においても他人事とはいえないものであります。ジャック・ロンドンがこの本でつきつけた社会の現実は単なる過去のロンドンの姿ととらえてはならない、今の日本が向かおうとしている姿かもしれないのです。作者はこれを政治の管理の問題として告発していますが、それ以上に危険なのは、これら貧困の問題を個人の人間性の問題へとすり替えようとする世間の風潮であると私は思います。下層階級が存在するということは決して他人事ととらえてはならない、政治も含めたわれわれの社会全体が直視しなければならない問題なのです。

 繰り返しますが、この本は今こそ読まれる価値があります。
大英帝国の影にメスを入れた秀作 ★★★★★
アメリカの小説家ジャック・ロンドンが1902年の夏にロンドンの最下層の生活の中に
入って書き上げたルポです。

世界で最も裕福な大英帝国の中心地ロンドンというのは、当時だれひとり否定する
ことがなかったことで、その暗部に迫り、現実のロンドンの貧困を、鋭い洞察力を持って
書き上げたジャック自身も、あまりにも酷い貧民街イースト・エンドの状況に驚いている
ことが理解できた。自らイースト・エンドの生活レベルに合わせ、貧民者に成り切って
の正にフィールド・ワークは、今日のあらゆる研究の原点ともいえるだろう。

当時のロンドンの様子が手に取るように理解できる点は、社会学、経済学的にも価値が
ある内容で、また、カナダのイヌイット族と英国人の比較などはジャックだからできた
ことかもしれない。

将来のアメリカを含めた、文明の発展に警笛を鳴らしたジャックは、現在でも十分に
通じるものがあり、その後の社会主義思想者へ影響を与えたことは言うまでもない。
隣人の悲惨に目を覆う者は世界に対する裏切り者だ! ★★★★★
ボーア戦争を取材する予定だったが急にキャンセルされてしまった為、ロンドンがロンドンの(駄洒落ではない)イースト・エンドに潜り込んで約七週間最下層貧民の暮らし振りを体験して書き下ろした迫真のルポ。統計資料等に頼って書いている部分もあるが、エドワード国王の戴冠式に賑わう世界の大都市の繁栄の陰にはびこる目を覆うばかりの貧困の実態と、それを生み出し剰え助長する社会制度についての告発が怒りを込めて生き生きと描かれている。

内容はいちいち紹介しているとキリがないので、以下に目次を記しておく。訳文については一長一短だが、この岩波文庫版は各章冒頭に掲げられている詩文もきちんと訳出しているし、数点収録されている写真の印刷状態も鮮明で良好、幾つかある邦訳の中でもお薦め出来るものとなっている。

 序文/奈落で暮らし出す/ジョニー・アプライト/私の下宿のことなど/どん底とある男/瀬戸際の人びと/フライパン横町と地獄/ヴィクトリア十字勲章受章者/荷馬車屋と大工/浮浪者収容所/「旗をかつぐ」/給食所/戴冠式の日/波止場人夫ダン・カレン/ホップとホップ摘み人夫/水夫の母/「財産」対「人間」/非能率/賃金/ゲットー/喫茶店と安宿/不安定な生活/自殺/子供/夜の光景/飢えの嘆き/飲酒と禁酒と節約/管理運営

因みに、元々"People of the Abyss"と云う言葉を考え出したのはH.G.ウェルズ。ウェルズもロンドンも文明改革の熱情に燃えて社会主義的な小説を幾つもものしたが、ウェルズが教育や合理性、人間の知的な可能性に重点を置いたのに対して、ロンドンは独特な弱肉強食的世界観で味付けをしており、仲々に迫力がある。興味を持たれた方は他の小説等にも当たってみることをお勧めする。