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ヴェネツィアに死す (光文社古典新訳文庫)

価格: ¥440
カテゴリ: 文庫
ブランド: 光文社
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それほど衝撃的ではありません ★★★★☆
 50歳で貴族の称号「フォン」を得た高名な作家アッシェンバッハは突然の衝動に駆られて旅に出ます。そのときの幻想的な描写は「この話は幻影です」という宣言のようにも見えます。ただし、衝動の割には心を決めるまで4ページを費やしてから、彼は出発することにします。
 ヴェネツィアでアッシェンバッハはポーランド人一家と出会います。その中の14歳くらいの美少年タッジオにアッシェンバッハは心奪われてしまいます。おやおや、ここまででもう50ページが使われています。このゆるやかなペースはまるで19世紀の小説のようですが、そういえば著者は19世紀生まれだったんですね。
 しかし、なぜポーランド人なのでしょう。当時のドイツ人にとって、ポーランドはなにか特別な意味があったのでしょうか。
 タッジオはどこから見ても完璧な美少年ですが、ただ、歯に難点があります。しかしアッシェンバッハはそれさえも魅力に感じます。あばたもえくぼ、です。一度はヴェネツィアから逃げだそうとしたアッシェンバッハですが、事故で果たせず、まるで開き直ったようにホテルに長逗留してタッジオの姿を追い続ける覚悟を固めてしまいます。しかしそこにコレラの噂が。アッシェンバッハはおそれません。彼がおそれるのはタッジオの一家が帰国してしまうことだけです。
 幻想のように始まった物語は、アッシェンバッハの死によって静止画のように閉じます。

 「初老の男の少年愛」というのは、当時はセンセーションだったでしょう。しかし私は(個人的な性的嗜好はともかく)「お稚児」とか「若衆」とか、男色が伝統文化に組み込まれている国の国民です。その程度のことばにたじろぐわけには生きません。そもそも性的なものどころか、アッシェンバッハとタッジオは言葉を交わすことさえなかったのです。
 「ことばで美が表現できるか」という難問に挑戦した本であるように私には読めます。ことばは戯れたゆたい、ちょっと油断したら「美」そのものではなくてその周囲の人間を描写することに逃げようとします。そのたびに著者はことばの群れを改めて「美」そのものに向けようとします。あるいは「美をことばで表現しようと苦闘する人間を、ことばで表現しようとしたもの」とメタ的に言ってもよいかもしれません。ともかく、暫時ことばの魅力(あるいは魔力)の中を漂うには手ごろな本に思えました。
 さて、次に読むべきは『ロリータ』かな?