破格の喜劇にして悲劇─その終幕
★★★★★
八木先生の大暴れは相変わらず。なんたって「追風に帆かけてシュラシュシュシュ」(P.264)だもん。
さてこの下巻の、それも最終章近くになってようやくピークオッド号は怨敵モービィ・ディックと出会う。
三日間の長きにわたる両者の格闘は緊迫感に満ち、思いもよらぬ伏線を効かせた幕引きへ読者を導く。
個人的に下巻で特に強く印象に残ったのは、理性的なスターバックと復讐に狂ったエイハブの
幾度かの対決であり、エイハブとピップの間に通う親子のような愛情だった。
地上の原理に忠実であろうとする者=人間と、地上の原理から追放された者=狂人とが
交錯して織り成されるドラマ。これほど濃密なドラマでさえも『白鯨』の一側面でしかないのだ。
一捕鯨船の航海を通じて描かれた森羅万象。人間と宇宙への深い考察。
この作品はどれほど言葉を尽くしても語り尽くせない。好き好んでカスタマーレヴューを書いておいて
無責任な言いぐさではあるが、「とにかく読んでくれ」結局のところこうとしか言いようが無い。
少なくとも、私の貧困な筆力では。