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白鯨 中 (岩波文庫)

価格: ¥987
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
Amazon.co.jpで確認
ISBNと一円本の怪 ★★★★★
 いま目の前、キーボードの左わきに二冊の岩波文庫が置いてある。2冊ともメルヴィル作『白鯨』上巻である。モスグリーンのカバーのが旧訳・阿部知二訳、ブラックグレーのカバーのが新訳・八木敏雄訳である。双方とも岩波文庫の「赤308-1」である。
 《訳者が違えば中身がまるで違う場合もありうるというのに、岩波は翻訳もしくは翻訳者を軽く考えているのだろうか?》
 《それにしても、枝番くらい工夫すればよかりそうなものを!》
 と、心中、舌打ちをしながらこの二冊を裏返して驚いた。なんと裏表紙に記されたISBN番号が両者とも「ISBN4-00-323081-7」と、まったく同一なのである。どうなっているのだ、これは!

 唐突ではあるけれども、ここに畏友 nous さんから昨晩届いていて、いま初めて見た返信を挿入させていただきたい。

 ふるみねさま
 倉卒の間にすこしだけ返信を書きます。貴下が触れてをられない本邦11番目の『白鯨』訳(八木敏雄訳)は阿部知二訳に代る岩波文庫版として2004年末に上中下3巻本が刊行されました。
 『鯨とテキスト』(研究社)の著書もある八木さんの訳はどうなつてゐるかといふと・・・
(41章、八木敏雄訳)
  わたしイシュメールも、あの乗組みの一人であった。わたしの叫びは、彼らの叫びといっしょになって天(あま)がけり、わたしの誓いは彼らの誓いととけあってひとつになった。わたしの内なる恐怖のせいで、ひときわ高くさけぶたびに、わたしは自分の誓いをハンマーできたえ、より堅固な錬鉄(はがね)にきたえていった。(上巻438頁)
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Chapter xli  MOBY DICK
I, Ishmael, was one of that crew; my shouts had gone up with the rest; my oath had been welded with theirs; and stronger I shouted, and more did I hammer and clinch my oath, because of the dread in my soul. [Electronic Text Center, University of Virginia Library]

[A] パヴェーゼ訳  CAPITOLO XLI Moby Dick
Io, Ismaele, ero uno di quest'equipaggio; le mie grida s'erano levate con quelle degli altri, il mio giuramento s'era confuso con loro, e, piu` forte gridavo, piu` ribadivo e allacciavo questo giuramento, per il terrore che sentivo nell'anima.

[B] 阿部訳  四十一章 モゥビ・ディク
 この私、イシュメイルも、あの乗組の一人であった。私の叫びは彼らのとともに立ち上がり、私の怒号は彼らのと相交った。いや、心中の恐怖のために、私の叫喚はひとしおにはげしく、私の怒号はひとしおに執拗だった。

[C] 田中訳   第四十一章 モービィ・ディック
 このわたし、イシュメールも、あの乗組の一人だった。わたしの叫びはほかの者の叫びとともに空に舞いあがり、わたしの怒号はかれらのそれと相交った。いや、心中の恐怖のために、わたしはひとよりも激しく叫び、ひとよりもやかましく怒号した。

 この一文、my oathを訳し忘れたせいか、[B][C]ともに後半の訳がいい加減だ。というか、まるで訳せていないままにほっておかれている。〈強く叫べば叫ぶほど、ぼくの誓いは強固になるばかりだった〉、という意味なのに。呆れるなぁ、[C][B]は訳者代れど、どうしてこうも同じ間違えを踏襲するのだ? むろん、[A]は(more)..., more....をpiu`..., piu`.... と、きちんと構文を捉えて的確に訳している。それがあたりまえのことなのに。
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 (八木敏雄訳、つづき)
何か凶暴な、何か神秘的な共感がわたしの内部に生じていたのだった。エイハブの抑えがたい怨念をわがことのように感じていたのだった。乗組み一同ともども、わたしはその凶暴な怪物の来歴に貪欲な耳をかたむけ、また一同ともども、その怪物を殺戮して復讐をとげることを誓ったのだ。(上巻438頁)
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A wild, mystical, sympathetical feeling was in me; Ahab's quenchless feud seemed mine.

[A] Un mistico, sfrenato sentimento di simpatia era in me; l'odio inestinguibile di Achab pareva fatto mio.

[B] きちがいじみた、不可思議な感情が身の中にともどもに流れ、燃えさかるエイハブの憤怒は私自身のものとさえ思われた。

[C]狂暴な、わけのわからぬ感情が、わたしの内にひとびととともに流れ、エイハブの消ゆることなき敵意は、またわたし自身のものであるような気がした。

With greedy ears I learned the history of that murderous monster against whom I and all the others had taken our oaths of violence and revenge.

[A] Con avide orecchie ascoltai la storia del mostro assassino contro il quale io e tutti gli altri avevano prestato giuramento di violenza e di vendetta.

[B] 一同とともに、あの凶暴な怪物を殺戮し復仇をとげようと誓いながら、そいつの歴史について、耳をそば立てて聴き入った。

[C]根ほり葉ほりして、あの兇悪な怪物の歴史をきき、一同とともにそれを打ち殺し復仇をとげようと誓った。

 my oath がここへ来て、our oaths に変わってゆく、そこのところがわかるような訳出が求められている。
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 どうでせうか。日本語訳の相対的優位性の点からいへば、彼我の差は明かだと思ひますが。【nous】

 ふむ、「さけぶたびに、わたしは自分の誓いをハンマーできたえ」か、これはぼく自身気を抜いたとたん、読み落としに近いことをしでかすということだな。
 "...., and more did I hammer and clinch my oath,...." か。
 むろん、パヴェーゼはこの箇所も",....piu` ribadivo e allacciavo questo giuramento,...." と、きちんと訳している。
 八木敏雄訳を読むことは、ぼくがとうに果していなければならなかった数多くの宿題の一つだけれど、いますぐにはかかれぬとしても、これは大分順番を繰り上げてかからねばいけなそうだ。というか、すぐにでも読んで確かめたいところだけども、いまは原作を読んでいるところだし、すぐそのあとでパヴェーゼ訳をまたも読み返したいのだ。気になっている邦訳はあと一つあることだし…… 読んだ時点で[E]訳、[F]訳として、この文章にはつけ加えてゆくことになるのかな。
 で、その後結局、八木訳、上、中、下をアマゾン・マーケットプレイスを介して、それぞれ三つの古本屋に発注した。昨晩M書店から届いた下巻を開けると、これが阿部訳だ。これからメールして、その対応を見極めねばならない。やれやれまたしても道草を掻いてしまった。

前略
 「八木訳」を注文したのに「阿部訳」が届いています。そちらの〈商品の詳細〉にも、「八木敏雄訳」と、明記されているにも拘らず、です。
 翻訳を比較・検討しているので、「八木敏雄訳」が必要なのです。早急に発送し直して頂けるものと信じております。
                      草々

 これに対して、たったいまM書店から返信が届いた。

 ご連絡を頂きましてから調べましたところ、『白鯨』の阿部訳と八木訳のISBN番号が同一である事が判明致しました。アマゾンはISBNによる商品識別のシステムになっており、当店も書籍データの入力を同方法で行っている為、今回のようなことになってしまったと思われます。本来、同一のISBNの異本はあってはならないものです。

 との由で、まったくその通りであるし、「今までに経験の無い事であるとはいえ、確認を怠ってしまい、誠に申し訳ございませんでした。」との一言があったうえに、返金もなされるとの事なので、「幸い良心的な書店に当たった」と、かえってこちらが恐縮してまった。
 岩波かアマゾンかISBNかに問題があるものと思われる。古書店側の労力など屁とも思っていないのだろうか? 熱心な読者の迷惑などは歯牙にもかけていないに違いない。ともあれ、八木訳下巻は他の方法で求めねばならなくなった。思わぬ道草を喰ってしまったが、さて、他の書店に求めた上、中巻の方は、果たして大丈夫であろうか?
中だるみ無し! ★★★★★
メルヴィルの筆力も八木の訳文も、膨大な情報量をものともせず読者を引きずり込む。
ストーリーは一向に進まないにもかかわらず。この力業にはただただ脱帽。
あまつさえ第81章「ピークオッド号、処女号にあう」ではスタッブが
原典にすらないオヤジギャグをかっ飛ばす。これを許した岩波書店って心が広いなあ…。

もちろんギャグやジョークばかりが『白鯨』の取り得ではない。例えば第82章「無敵艦隊」で
母親の乳房にしゃぶりつく赤子の眼差しについて触れた一節からはメルヴィルの
人間に対するただならぬ観察眼・洞察力がうかがわれるし、
第45章「宣誓供述書」の「この世には真実を証するのに虚偽を糊塗するのとおなじほどの
エネルギーを必要とするという、意気阻喪すべき事例にみちあふれているものでありますが」は
現代においてなお痛感される真実だ。

これと言って悩みも無いけど刺激も無くて毎日が物足りないというあなた。
岩波文庫の『白鯨』を手に取って、どこでもいいから適当に開いて読んでみて下さい。
もしかしたら、あなたを突き動かす何かに出会えるかも知れません。
「豊富な主題からは多くの章が生まれる。」 ★★★★★
中巻は、鯨にまつわる様々なことが書かれている部分にあたっています。
メルヴィルが、「樹幹から枝はのび、枝から小枝はのびる。豊富な主題からは多くの章が生まれる。」と述べているように、鯨を主題にした事件や考察が実に豊富に取り上げられています。
特に、ピークォド号が鯨を捕まえる場面は実に迫力があり、目の前にその劇的な情景が浮かんできます。


エイハブ船長は、何かを暗示するように時折姿を現します。
「生きた方の片脚は精気に満ちた響を甲板上に叩きつける一方、死んだ方の脚は棺桶を打ちつけるような音を立てていた。この老人は生と死の二つの世界を歩いていた。」

これは、片脚を鯨に奪われたエイハブの身体上の特徴と彼の複雑な心理を描くと同時に、エイハブという人間を通して示される運命を含んでいるような気がします。
ファウストに登場するメフィストフェレス(彼も片脚が人間ではない。)との類似をも感じさせます。