フローベールの最高傑作
★★★★☆
三つの短編(コント)から成る、フローベール晩年(56歳)の作品です。文章の余計な装飾を排して、物語の価値を聞かせてくれる小説。
一つの短編は60ページくらいの分量で、日本の普通の短編小説よりは少し長めです。
・まごころ(田舎のおばあちゃんを思い出すような、平凡で信仰心の篤い女性の一生。)このタイトルを「平凡な女」「素朴な女」などと
訳した別の翻訳本もあります。
・聖ジュリアン伝(ギリシャ神話のオイディプス王、スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』などを思い浮かべます。)
・ヘロデアス(預言者ヨハネの首を撥ねるか否か苦悩する王の物語。サロメが登場します。)
三つにして、恐らく三つに限られた方法を示している(チボーテ)
フローベールの卓越した洞察力は、人間の生まれ持った天性の性質を見抜き、その性質によって決定していく運命のパターンを3つの物語で描いて行きます。この3つの物語からケース・スタディする事が出来れば、読者は『人生って何だろう?』と他人に聞かなくてもよい人格が得られると思います。
ただ、翻訳が昭和の初期なので文章に古さがあり、漢字も旧字体です。(岩波文庫・山田九朗訳⇒昭和15年(1940年)翻訳)
トロワコント(3つの物語)の日本語訳は他にも有ります。昭和20〜30年代の訳が多いですが、大きな図書館に置いてあるフローベールの全集などで、これだと思えるものを一度読んでみて下さい。古い本の中で格調ある翻訳のものもあります。