床の上には月光でできた巨大な枡目があり、その光の中には彼自身の影があった
★★★★★
自閉症気味のルージン少年にとって世界を認識するのに役に立ったのがチェスです。駒の動きが作り出すメロディや一連の手筋に調和の取れたパターンを見つけ出したのです。その旋律や図案に転換すれば外界をなんとか認識できそうな予兆を感じるのです。しかしチェスの神童が名人となっても、鮮烈に思い出されるチェスのパターン以外の記憶は磨りガラス越しのようにもどかしく、その周辺視野は「夜の黒い矩形が鏡のように光っている」のみです。チェスに関しては遥か先を読むことも、逆向きに遡及してレトロ解析をすることも得意なのですが、現実世界でのルージン名人はそういうことが全くできないのです。
そんなルージンをナボコフは攻めたてます。多視点を取り細部にも視線を行き届かせ、前向きに逆向きに自在に時間を切り換えて「ふるえている全裸のルージン」をチェス盤の中央に立たせるのです。そうなるとルージンは感覚を遮断するか意識を飛ばすしかなくなります。もしルージンに「素敵な夢の中に生きているんだ」ということを実感させなかったら、モザイク状に現在/過去とチェス/現実を描写する緻密な技巧には満ちていても孤独な印象を残すだけの作品だったかもしれません。
情報の中のノイズの除去ができなかったり、他人との心理的距離がうまく保てないルージンの世界の認識の仕方は普通の人とは全く異なります。しかし、ルージンが幸福感に浸るときはともに嬉しくなり、彼が泣いてしまうときはともに悲しくなっていくことが自然にできるのです。ルージン夫人や「瑪瑙のような目をした医者」のように、人々はそれぞれのルージンに対し安心を与える視線を持つことができるのかもしれません。そこにはナボコフが本作を評するように「温かさ」が満ちあふれているのでしょう。現代でこそさまざまな認知機能のあり方や精神発達の過程があることがわかっていますが、1929年にルージンの世界の見え方と心理反応をルージン個人からボトムアップしていき、なおかつチェスも絡めるナボコフには驚嘆するしかありません。
チェスの棋譜さながらの面白さ!
★★★★★
芸術的なその戦法によって、幼少時から数々の大会で勝利と名声を重ねてきたチェスの天才、ルージン。ある重要な試合半ばにして極度の緊張から神経を病むが、彼の純粋さに惹かれた女性と出会い結婚、妻の献身的な愛情によりチェスから離れ静かな人生を歩み始める。しかしチェスという魔物は決してルージンを放ってはおかなかった。そしてある日ついに―。
「ロリータ」の作者として知られる亡命作家ナボコフが、母国語であるロシア語で書いた初期の傑作。チェスの棋譜さながらの周到な伏線、重厚で高度な芸術性、ユーモア、悲劇性などの多彩な魅力に加え、ロシア文学ならではの幻想的な陰影が独特の深い読後感を残す。日本ナボコフ協会会員であり、国際チェス連盟による日本人初の「プロブレム(チェスの詰め将棋のようなもの)解答国際マスター」の称号を持つという翻訳者、若島正氏の誠実で読みやすい翻訳と解説も素晴らしい。
チェスの棋譜さながらの面白さ!
★★★★★
芸術的なその戦法によって、幼少時から数々の大会で勝利と名声を重ねてきたチェスの天才、ルージン。ある重要な試合半ばにして極度の緊張から神経を病むが、彼の純粋さに惹かれた女性と出会い結婚、妻の献身的な愛情によりチェスから離れ静かな人生を歩み始める。しかしチェスという魔物は決してルージンを放ってはおかなかった。そしてある日ついに―。
「ロリータ」の作者として知られる亡命作家ナボコフが、母国語であるロシア語で書いた初期の傑作。チェスの棋譜さながらの周到な伏線、重厚で高度な芸術性、ユーモア、悲劇性などの多彩な魅力に加え、ロシア文学ならではの幻想的な陰影が独特の深い読後感を残す。日本ナボコフ協会会員であり、国際チェス連盟による日本人初の「プロブレム(チェスの詰め将棋のようなもの)解答国際マスター」の称号を持つという翻訳者、若島正氏の誠実で読みやすい翻訳と解説も素晴らしい。
チェスを扱った傑作小説
★★★★★
映画化もされた「ロリータ」で有名な著者ですがチェスもかなり好きだったようですね。外国小説独特の風景描写で物語は始まり、少し難解な感じがしますが、読み進むにつれて音楽、絵画などの芸術と同じようにチェスを捉えた表現に惹き込まれます。多数のチェス本の翻訳を手がけておられる若島 正さんの文章はほんとに見事だと思います。 チェスを題材にしておりますが棋譜は全くと言っていいほどでてこないので普通の小説としても読めますし、かといってチェスファンにとって物足りないということもなく、興味深く読みました。 河出書房新社さん、チェスに関するよい本をこれからも出して下さい!^^
床の上には月光でできた巨大な枡目があり、その光の中には彼自身の影があった
★★★★★
自閉症気味のルージン少年にとって世界を認識するのに役に立ったのがチェスです。駒の動きが作り出すメロディや一連の手筋に調和の取れたパターンを見つけ出したのです。その旋律や図案に転換すれば外界をなんとか認識できそうな予兆を感じるのです。しかしチェスの神童が名人となっても、鮮烈に思い出されるチェスのパターン以外の記憶は磨りガラス越しのようにもどかしく、その周辺視野は「夜の黒い矩形が鏡のように光っている」のみです。チェスに関しては遥か先を読むことも、逆向きに遡及してレトロ解析をすることも得意なのですが、現実世界でのルージン名人はそういうことが全くできないのです。
そんなルージンをナボコフは攻めたてます。多視点を取り細部にも視線を行き届かせ、前向きに逆向きに自在に時間を切り換えて「ふるえている全裸のルージン」をチェス盤の中央に立たせるのです。そうなるとルージンは感覚を遮断するか意識を飛ばすしかなくなります。もしルージンに「素敵な夢の中に生きているんだ」ということを実感させなかったら、モザイク状に現在/過去とチェス/現実を描写する緻密な技巧には満ちていても孤独な印象を残すだけの作品だったかもしれません。
情報の中のノイズの除去ができなかったり、他人との心理的距離がうまく保てないルージンの世界の認識の仕方は普通の人とは全く異なります。しかし、ルージンが幸福感に浸るときはともに嬉しくなり、彼が泣いてしまうときはともに悲しくなっていくことが自然にできるのです。ルージン夫人や「瑪瑙のような目をした医者」のように、人々はそれぞれのルージンに対し安心を与える視線を持つことができるのかもしれません。そこにはナボコフが本作を評するように「温かさ」が満ちあふれているのでしょう。現代でこそさまざまな認知機能のあり方や精神発達の過程があることがわかっていますが、1929年にルージンの世界の見え方と心理反応をルージン個人からボトムアップしていき、なおかつチェスも絡めるナボコフには驚嘆するしかありません。
チェスの棋譜さながらの面白さ!
★★★★★
芸術的なその戦法によって、幼少時から数々の大会で勝利と名声を重ねてきたチェスの天才、ルージン。ある重要な試合半ばにして極度の緊張から神経を病むが、彼の純粋さに惹かれた女性と出会い結婚、妻の献身的な愛情によりチェスから離れ静かな人生を歩み始める。しかしチェスという魔物は決してルージンを放ってはおかなかった。そしてある日ついに―。
「ロリータ」の作者として知られる亡命作家ナボコフが、母国語であるロシア語で書いた初期の傑作。チェスの棋譜さながらの周到な伏線、重厚で高度な芸術性、ユーモア、悲劇性などの多彩な魅力に加え、ロシア文学ならではの幻想的な陰影が独特の深い読後感を残す。日本ナボコフ協会会員であり、国際チェス連盟による日本人初の「プロブレム(チェスの詰め将棋のようなもの)解答国際マスター」の称号を持つという翻訳者、若島正氏の誠実で読みやすい翻訳と解説も素晴らしい。
チェスの棋譜さながらの面白さ!
★★★★★
芸術的なその戦法によって、幼少時から数々の大会で勝利と名声を重ねてきたチェスの天才、ルージン。ある重要な試合半ばにして極度の緊張から神経を病むが、彼の純粋さに惹かれた女性と出会い結婚、妻の献身的な愛情によりチェスから離れ静かな人生を歩み始める。しかしチェスという魔物は決してルージンを放ってはおかなかった。そしてある日ついに―。
「ロリータ」の作者として知られる亡命作家ナボコフが、母国語であるロシア語で書いた初期の傑作。チェスの棋譜さながらの周到な伏線、重厚で高度な芸術性、ユーモア、悲劇性などの多彩な魅力に加え、ロシア文学ならではの幻想的な陰影が独特の深い読後感を残す。日本ナボコフ協会会員であり、国際チェス連盟による日本人初の「プロブレム(チェスの詰め将棋のようなもの)解答国際マスター」の称号を持つという翻訳者、若島正氏の誠実で読みやすい翻訳と解説も素晴らしい。
チェスを扱った傑作小説
★★★★★
映画化もされた「ロリータ」で有名な著者ですがチェスもかなり好きだったようですね。外国小説独特の風景描写で物語は始まり、少し難解な感じがしますが、読み進むにつれて音楽、絵画などの芸術と同じようにチェスを捉えた表現に惹き込まれます。多数のチェス本の翻訳を手がけておられる若島 正さんの文章はほんとに見事だと思います。 チェスを題材にしておりますが棋譜は全くと言っていいほどでてこないので普通の小説としても読めますし、かといってチェスファンにとって物足りないということもなく、興味深く読みました。 河出書房新社さん、チェスに関するよい本をこれからも出して下さい!^^