邦題の『透明な対象』が適切かどうか疑問に思う。
和訳に疑問の箇所があると、原書でその箇所を確かめてみる「シュミ」(笑)がある。本作では、和訳書6ページの、「過去が透けて輝く、透明な対象だ!」とあるが、この作品が、たとえば、ホテルの部屋の机の引き出しに大工が忘れていった、チビた鉛筆の「出自」についてもうんぬんされているような書き方にも現れているように、徹底して即物的な世界を描いているので、「透明な対象」として訳してしまうのに、微妙な違和を感じる。ナボコフの世界は、こうした微細な違和にさえ鈍感であってはいけないと思う。
件の箇所の原文__Transparent things, through which the past shines!