陰鬱な激情をリアルに描ききる作品
★★★★★
主人公ジュリアン・ソレルの、打算的で野望に満ち満ちたダークな側面と、宗教の儀式や恋にすぐに感動してしまうといった純粋な側面という二つの顔が印象深い。自意識過剰で陰鬱な彼のキャラクターは、今の若者・青年にとっても非常にリアルだ。複雑に転回していくストーリーを背景に、上述の如き二面性に引き裂かれるジュリアンが生きていく様は、読んでいて非常にスリリングである。悲しいくらいにすれ違いつづけるジュリアンと「他者」「世界」。後半の息を呑むような展開は、まさに本を置くことが出来ず、ひたすらページをめくり続けるしかなかった。 名作と聞くと読む前から萎えてしまう事が多いが、本書は一気呵成に読み終えることができる。生島遼一氏の秀逸な訳・解説も必読。もし同じスタンダールの『パルムの僧院』と比べろといわれたら、主人公ジュリアンの陰鬱で分裂症的なキャラクターが気に入ったので本書をお薦めする、と答えよう。