私も躁うつ病患者なので、少し期待して本書を読んだ。でも、もともとダニエル・スティールは嫌いな作家だ。一度ロマンス本に臨んだが、甘ったるくて面白くなかった。だから、この本も甘いのかなと予測していたら、案の定そうだった。私はこれを読みながら何度床に叩きつけたくなったことか。
「私はこんなにニックを愛し、彼からも愛されました」という空気が蔓延している。ポエムなんて読めたものではない。この本は、ニックの死に罪悪感を持つ、やたらと子沢山でワーカホリックな母親の、自己正当化劇場である。本当に彼を愛していたら、もっともっと真剣に彼に向き合うべきであった。
ちなみに、躁うつ病とうつ病は全然違うものだ。うつ病の人に、躁の恐ろしさと反動のうつの急降下ぶりは、絶対にわかるまい。私が思うには、こんな甘ったるい本を読む時間があったら、また、真にこの病気を知ろうと思うのなら、著者自身も病気であるケイ・ジャミソンを読む方がずっとずっと有意義だ。
ニックが闘いを放棄せず、生き延びて音楽活動を続けてくれていたら、同じ病気の人間としては、どれだけ励みになることだったか。彼が綴ることができたであろう自伝の方が、はるかに価値のあるものとなっただろう。でも死にたくなる気持ちはよくわかるのだ。ニック・トレイナのご冥福を祈ります。