対のような書き出しと終わりが美しい
★★★★☆
本来ならば逆であるべきだが、同名の映画『サガン-悲しみよ こんにちは- [DVD]』を観て興味を持ち、手に取ったフランソワーズ・サガンのデビュー作。自由を求める軽い気持ちが引き起こした事件を経て悲しみと出会う少女を、一人称で描くストーリー。
18歳の著者サガンの目線でストレートに表れているのか、非常に「少女」色の強い作品だと感じた。愛、憂い、憧憬、劣等感、幸福感、倦怠感、期待、後悔、そして悲しみ。振り子のように振れる、素直とも複雑とも言える思春期の少女の内面が詩的な表現で描かれている。
「悲しみ−それをわたしは身にしみて感じたことがなかった。」
「今は、何かが絹のようになめらかに、まとわりつくように、わたしを覆う。」
「わたしはそれをその名のままに、目を閉じて、迎え入れる。」
対のような書き出しと終わりが美しい。短時間で一気に読み抜きたい作品。
女性文学の傑作!
★★★★★
1954年のフランス古典作品。新潮文庫の戦後の海外文学作品としては「老人と海」の次に売れたらしい。
(今はあまり売れてないのか、サガンの作品はほとんど廃版になってる・・・)
タイトルが素敵。文章の長さも短くて読みやすい。
南フランスの海岸・・・暑い日差し・・・綺麗な別荘・・・憧れでもあり反感の対象でもある年上女性との葛藤・・・ひと夏の恋・・・そして喪失・・・
などなど、現代の売れる女性作家の「要素」みたいなものがこれでもかと中にぶち込まれてる感じ。
すごくキラキラして爽やかで詩情もあり、そしてちょっぴり悲しい。
しかもこれはサガンは18才(!)の時に完成させたらしい。
何にしろ本が好きな女性は避けて通れない1冊だと思う。
翻訳もかなりしっかりして読みやすい。
今から読む人には新訳だがこの河野万里子訳をおすすめしたい。
この新訳は素晴らしい!
★★★★★
高校生の頃に読んだ朝吹さん訳のほうは
内容の強烈さにクラクラして、強烈な読書体験だったが、
妙にひねくった言い回しが多い気がしていた。
でもそれがまた、
フランスの小説を読んでいるという気分にしてくれた。
今回の新訳は、非常に読みやすい。
日本語としてきれい。
また、アンヌのドレスの色がネズミ色から
シルバーグレーに訳が変わった。
このドレスの色がアンヌのイメージの大きなパーツだったので
私にとってはちょっと衝撃だったが、
ドレスの色の表現としては、やっぱりシルバーグレーのほうが良い。
原書ではどんな表現なのだろうか。
というか、初読ではセシルの年齢だったのに、
今はアンヌの年齢より上なのだと思うと
悲しいなぁ。
まぶしく、切なく、残酷な青春小説の傑作
★★★★★
18歳のサガンが書いた青春小説。ジーン・セバーク主演で素晴らしい映画にもなった。17歳の少女セシルはファザコンで、やもめのハンサムな父を愛しているが、父には、聡明で魅力あふれる42歳の恋人アンヌが現れる。太陽がきらめく南仏の海岸で、セシルは、自分のボーイフレンドを巻き込みながら、父をアンヌから奪い返そうと戦いを挑む。青春のまぶしさ、残酷さ、切なさが交錯する、シャープでニュアンスにみちた美しい文体。河野万里子氏の新訳は、とても読みやすい。海岸ではじめて水着姿になるアンヌを観察するセシルの、少女特有の複雑な視線を、旧訳と比べてみよう。「アンヌは海辺ガウンをつけていた。彼女は、私たちの観察的な視線の前で、平然とそれを脱いで、横たわった。細い胴、完全な脚、彼女にはほんの少しの衰えしかなかった。・・・私は眉毛を上げて、思わず父への賛意の眼差しを向けた。非常に驚いたことには、父は同意の眼差しを返さずに、眼をつぶった」(朝吹登水子訳)。「アンヌは水着用のガウンを着ている。わたしたちがじっと見ている前で、彼女はそれを静かに脱ぐと、そのまま横たわった。細いウェスト、申し分ない脚。ほんのわずかな衰えしかない体だ。・・・私は思わずまゆを上げて、父に称賛のまなざしを送った。ところが驚いたことに、父はそれに応じるどころか、目をつぶってしまったのだ。」(本訳p35)