そしてなんといっても目玉は番外編「ラクにて」。これはもともと The Jungle Book の中にはなく、それより一年ほど早く発表された別の短篇集に収録されている。ジャングル・ブックとはかなり雰囲気が異なり、人間界でのモウグリの活躍が中心で、なんとロマンスまで盛り込まれている(ただし、これを読むと、キプリングは本質的にロマンスに向かない作家なのがわかっておもしろい)。
どちらかというと、「ラクにて」のロマンスよりも、第八章で描かれる少女との出会いの方がさわやかでさりげなく、印象的。この少女をディズニー映画のラストシーンに重ね合わせる人は多いのではないだろうか。
『ジャングル・ブック』といえば、真っ先にディズニーアニメのかわいらしいモウグリ坊やの姿を思い浮かべる人もいることだろう。また、実写版の映画を見た人は、豪華絢爛な財宝をめぐる冒険や美少女とのロマンスを期待して読むかもしれない。しかし原作はモウグリの孤独な復讐物語がメインで、ある意味ハードボイルド小説のさきがけのような感さえある。けっして子供向けのおとぎばなしではない。
ぜひとも読んでいただきたいのは、第三章のラストシーン。宿敵シーア=カーンとの戦いの後で、モウグリの歌が響き渡る。そこに歌われている深い孤独、引き裂かれた自我の痛ましさ。しかし、モウグリの明るい未来もほのめかされていて、救いとなっている。
The Jungle Book の中にはほかにもキプリングの魅力を伝えるよい作品がたくさんあるが、残念なことにそれらすべてを収録した邦訳は現在手に入らない。これらを含んだ完訳版も待ちたいところである。
ペンギン・クラシック版 The Jungle Books は、The Jungle Book と The Second Jungle Book の両方が収録されていてお買い得。しかも、巻末には固有名詞の読み方や意味がわかる註までついている。クマの名前はバルーが正しい? それともバールー? オオカミのリーダー、アケイラの名前に隠された深い意味とは? 註だけでも楽しめる。
実は、この本を買う前にパフィン版 The Jungle Book を持っていたが、残念ながら続編が入手不可だった。面白いのは断然 The Second Jungle Book のほうなので、仕方なくペンギン・クラシック版で買ってみたら、これが大正解。これから買う人にはこちらをお薦めしたい。
オオカミ少年モウグリの冒険物語。だが映画やアニメを先に見た人は意表をつかれるだろう。財宝や美少女をめぐるロマンというよりは、動物の群れからも人間たちからも本質的には受け入れてもらえない、モウグリの孤独がメインテーマになっている。モウグリを支えるクロヒョウ、バギーラも意外な過去の持ち主。とりわけバギーラの妖しい魅力をぜひ原作で堪能してほしい。
一話完結の短篇集形式。モウグリとは無関係のエピソードも入っている。マングースのリッキ・ティッキ・ターヴィがコブラと戦う話など、そこだけ読んでも面白い。