「The Inner Life of Martin Frost」と本書について
★★★★☆
本書の後半に出てくる「The Inner Life of Martin Frost」は本書執筆後に、オースター自身による監督で映画化されている。(米国でDVDが出ているほか、シナリオも出版済。)映画のストーリー自体は本書で紹介されている内容が前半でその後に(本書では触れられていない)後半のストーリーが続いているが、著者お得意の「書くこと」を巡る素敵なおとぎ話に纏まっていた。
このMartin Frostを巡る物語は当初から短編映画シナリオとして執筆されており、実は本書の創作よりも歴史は古い。オースターは複数のアイデアを何年も練りながら作品を熟成させる作家だが、本書の場合は最初にある程度完成されていたMartin Frostの物語をリサイクルしながら後半が仕立てられているため、少しその接続部の溶接箇所にささくれがあったように思う。素敵な話ではあるのだが、この小説内に別ストーリーとして挿入させるには、少し冗長な気がするのだ。(そこが気になったので星一つを減らしました。)
本書は「読むこと」「書くこと」に対する愛情を一貫して書き続けたオースターが、90年代以来深く関わってきた「映画」への愛情を軸に据えて書いたおとぎ話です。そういう意味では、オースターが本書以降も「読むこと」「書くこと」に関する作品を書き続けていることを考えると、「代表作」とは言い難い作品ではあります。なので私も「最高傑作」とこの小説を評するのには賛成ではありませんが、よくできた小説であることには変わりありません。
孤独を描くのがいつも上手い
★★★★★
柴田さんの訳を一語一語かみしめるように読んでいきました。
どんどんのめりこみ、あっという間にラストへ。
すばらしい装幀とタイトルがこの本をあまりにも的確にあらわしています。
読後、知らないうちに涙が……。
複数のカップルが幾重にも交差しあい、まるで万華鏡のように鮮やかにも哀しく展開していきます。
精緻をきわめたストーリー・テリング。ヘクターという人物の彫像のような見事な立体感。
いちオースターファンとして
★★★☆☆
現在アラサーにさしかかり、中学時代からオースター作品を読んできました。その間彼の作品は何回も読み返し、その度に自分の年令に応じてまた作品の違う面を見たり感じたり、、。自分はオースターから本を読み込むことの楽しさを知ったといっても過言ではありません。
でもこの作品は、またいつか読みたいと思うかなあと、、。なんだか軽い印象を受けました。正直。
訳が悪いのかな。柴田さんめっちゃくちゃ忙しいだろうし。ピンチョンの新訳や改訳も伸び伸びだし。
でも読みやすいことはこの上なしだし、途中何回もハッとさせられるストーリー展開もあり十分楽しめたんですがね。
引き込まれる面白さ。
★★★★☆
久しぶりのポール・オースターの新作ということで、読んでみた。文章が端的で、引き込まれる勢いを感じる。悲しくても、面白くても表情に出さない文章が、悲しませ、笑わせる。最高傑作との評価もある作品で、前半から、意味もつかせぬ面白さでぐいぐいと読者を引き込んでいくのは流石だった。
ただ、その芸術性やオチをつけようとしすぎた感じがあって、ものすごく面白かったけれど、最後の感動がもう一つだった。絶望から救ってくれた消息不明のヘクターに出会うところまでは完全と思うのだが、その後の、ヘクターに関わるすべての人々の悲劇は、もし、僕が主人公だったら、立ち直りかけた自分が再度地獄の底へ引き落とされて、絶望に打ちひしがれるのではないか?という疑問が残るのだ。またしても最愛の人を失ったという絶望に。
その点だけが心残りで、評価を4にした理由である。たしかに、今までの作品の中でも、最高に面白い部類に属するが、まだ、もう一歩高みへ上り詰めて欲しい作家である。
読み終えることがもったいなく思える、時間を忘れる本である。。
オースターの作品の中でも一番かな
★★★★★
久しぶりにオースターの新刊が出たので、早速読んでみた。この本の評判は聞いていたんだけど、翻訳されるまで結構時間がかかっていたので、楽しみにしていた。
評判どおり、今までのオースターの作品の中でも一番、面白かった。面白かったという表現では、足りないな、感動するぐらい美しい小説だった。
あまりにも、感動したので、読み終えたくなくなり、速読派の自分なのに、何日もかけてゆっくり読んでしまった。
無声映画時代の俳優とそれを題材にした本を書いた大学教授の二人の人生をうまく交錯させて、人生の喪失感を無類のストーリーテリングで読ませる。
ラストも胸が詰まった。
いい小説だった。
『マーティン・フロストの内なる生』っていう映画は見てみたい。