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鍵のかかった部屋 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

価格: ¥1,296
カテゴリ: 新書
ブランド: 白水社
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美人妻の悲喜劇をあなたにも! ★★★★★
 失踪した幼友達の美人妻から「主人を探して!」って請われた「僕」。これを断らない手はないってんで、当然「僕」はこの依頼を受ける。あわよくばこの美人妻をモノにすることができるやも知れぬ。実際のところ、モノにしてしまい、結婚もした。さらにさらに、この失踪した友人のいまだに若々しくて魅力的な母親とも仲良くなり、2回もいたしてしてしまった。

 冗談はさておき、ニューヨーク三部作の最終巻である本書は、過去の2作品と同様のテーマを扱っていることには違いない。つまり、訳者あとがきで柴田元幸が述べているように、「誰かを見張っている人物が、自分こそ誰かに見張られているのではないかという思いに襲われる」、あるいは「僕がファンショーを追いかけるプロセスは、ある意味で僕がファンショーになってゆくプロセスでもある」ということなのだ。

 オースターの巧みなストーリー・テリングでついつい引き込まれて読んでしまうが、「僕」がソフィーと暮らし始め、ついには結婚までした後のいろんなファンショー追っかけエピソードは、どうでもいいんじゃないか。
 最終章までずるずると面白く読ませる手順は「さすが!」だが、最期の最期、コロンブス・スクウェアのシーンだけで話を終えることもできるし、読者も納得する・・・・・。
「鍵のかかった部屋」 ★★★★★
 「自己」の中における「他者」の発見、「他者」を通した「自己」の発見はありふれたテーマであり、多くの作家がこのテーマのもと作品を生み出してきた。オースターもその大勢の中の一人に過ぎないのだが、発見に至る叙述は読者の期待、そして作者の企図をも超えて読み応えがある。人物造形のうまさとストーリテリングは作家として初期の段階においても特異なものがある。
 「鍵のかかった部屋」こそ、他者の象徴であり、自己へと通じる道であるが、凡百の啓蒙書を読むより、この一冊を読めば自己と他者に関する認識は深まる。「鍵のかかった部屋」は抽象的な他者の象徴として機能しているだけではなく、実在感、いや、異物感さえ感じさせる。すべてはオースターの叙述と柴田氏の翻訳のなせる業である。翻訳でこのような優れた本を読むことができるのは幸いである。
小説表現におけるミニマリズム ★★★★★
 「言葉というものを大切に思うこと。書かれたものに自分を賭けてみること。そうしたことが他の要素を圧倒するのであり、それに較べれば、自分の人生などごくささいなものに思えてくるのだ。」(本書50ページ)

 言語表現に対するこのような愛情の下で、この小説のストーリーでは、批評家の主人公(読み手)が幼馴染の天才小説家(書き手)に殺意を抱きつつアイデンティファイしていく。両者ともに家族や生活を削ぎ落とし、自己自身のアイデンティティや存在さえも消し去りながら、「書くこと」「読むこと」に一体化しようとする。特に両者が狂気スレスレまでいって対話する後半は読み応えがあるが、同じようなテーマで語り手が消え去った「シティ・オブ・グラス」と対照的に、この小説では現実=こちら側の世界に主人公がギリギリのところで引っかかっているところが面白い。その点で、この小説のラストにほのかな「希望」を読み出す読者もいるだろう。(訳者もその一人。)

 「書くこと」に自己言及した小説を書いた作家は沢山いるが、不可能だと知りつつ「書くこと」と「読むこと」、それ自体を掴もうとしてミニマリズムを展開したこの作品は、奇跡的なことにストーリーに厭きがこないどころか、ミステリー仕立てで面白い。文句なしに初期オースターの傑作として文学史に残る作品でしょう。これからも、何度か繰り返し読みたいと思います。
ただカフカ的なだけじゃない ★★★★★
「ファンショー」を「フィクション」に読み替えて、
オースターがフィクションの創作に関して何かを掴むまでのプロセスの
最終段階の物語としても読めます。特に後半、特に第8節の途中以降は
著者が書く際、「フィクションは……」などと書いて後から
「フィクション」を「ファンショー」に一括変換
したのでは?と思うぐらい(笑)そのように読むと
いろいろおもしろいことを言っているので是非試してみてください。
人間の危さや脆さを描く傑作 ★★★★★
本書はThe New York Trilogyの最終話だ。

この3部作は何れもある人物に関わる謎を探ることを目的とする推理小説のような体裁を取っているが、読み進めるにつれて実は謎を追い求める主人公の内面の変化がテーマになっていることに気がつく。

主人公は最初は職務としてターゲットとなる人物を尾行したり、過去を調べたりするのだが、次第にターゲットと自己との境目が曖昧になり、謎を探る行為は職務ではなくそれ自体が自己の存在意義と化していく。

外面からは安定しているように見える人間の心に潜む危さや脆さが見事に描き出されており、楽しく読める作品ではない。だが最近のポール・オースターの円熟した作品とは異なる実験的な要素がちりばめられた初期の傑作だと思う。