5年間取材を続けた筆者が「…人間という器は実に伸縮自在だ」と述べるように、きっかけをつかみゆっくりと変わっていく主人公に心からエールを送りたい!
取材対象となった引きこもりの若者たちは、テレビを見たりCDを聞いたり本を読んだりゲームをしたりビデオを見たりしている。生産はしないけれども、消費はしている。つまり、社会人ではないけれども、消費者として存在していることがわかる。
戦後日本は、村社会や家族社会といった「社会」を切り捨て、世界有数の「経済」を手にいれた。一極集中による新興住宅地の林立や農村の過疎化などによって地域社会が破壊され、家族は「個」の集合体と変貌し、企業社会だけが残った。「社会」という、複雑で非合理的で非効率的なものから、「経済」という単純で合理的で効率的なものへという、戦後日本がたどってきた道のりの果てに、純粋に消費する存在として、引きこもる若者たちの群れがあらわれた、ともいえるだろう。
この本に登場する若者たちは、「社会」を拒絶する人生から、失われた「社会」を作り出す人生へと、ゆっくり舵を切っている。それは、バブル以降の日本社会そのものが向かうべき方向でもあるのだろうと感じた。
いくつか気になった点としては、①本書はある一つの支援団体を通してのケース・スタディのみで構成されており、他の例や考え方も取り上げて欲しかったこと、②本書で取り上げているのは、実際には本人も社会との関係修復を望みなおかつそのための対処も用意されている「軽度」の例が多く、医学的治療を必要とするような「重度」の例が紹介されていないこと(もっとも取材自体かなりの困難が予想されるが)。これらの取材が可能なら、その後の追跡レポートとともに是非読んでみたいものだ。