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「引きこもり」から「社会」へ―それぞれのニュースタート

価格: ¥1,575
カテゴリ: 単行本
ブランド: 学陽書房
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「ゆらぎ」がもたらすもの ★★★★☆
こうしたドキュメントの感想で難しいのは、扱われる対象そのものを論じてしまって、「どう描いているか」に言及されにくいことだと思います。つまり文明批評しちゃって書評にならない。そこらへんを意識して――本書のポイントは、「私」すなわち著者荒川氏が、文章の中へどのように介入していくか、もしくはしないか、ということにあるように思われます。前半は「介入しない」方針のようで、あくまでも対象――引きこもりの人とそれを社会復帰させるべく支援する人たち――だけが描かれる。だから時折「私」が「ずっこけ」たりすると、まるでフィクションの中に唐突に作者が登場したような違和感を覚えます。そしてこの前半がどうもリズムにのれないのです。転調が見られるのが第五章で、ここで描かれる対象が荒川氏の初めての取材相手ということもあってか、「私」が度々出てくる。母親の話を聞きに福岡を訪ねたり、四国での行事に参加したり。著者のとった具体的な行動が書き出されることで、読む側にもハズミがつきます。何より印象に残るのは、取材対称にいだく荒川氏の「戸惑い」です。「引きこもり」への先入観に較べその青年はいかにも「普通」だった。その「ゆらぎ」がこちらに伝わってくるのが面白い。著者の存在あってこその「ゆらぎ」なわけで、つまりどこまでも自分を介入させていき、周囲と己との「落差」を描くことで活き活きとした表現ができる。荒川氏はそんなタイプなのではと感じました。第五章は他と違って苦い終わり方をしています。「NS」のその問題点に、本書は以後特に触れていません。このテーマにたいする荒川氏の仕事はまだ終わっていないのではないでしょうか。さらに深い取材を望んでやみません。
いろんな世代で読んでみてほしい本 ★★★★★
引きこもりの原因?支援団体の活動内容ってどんなもの? 普段考えることのない数々の疑問。
あるNPO法人の支援を受けながら自分の道を模索する8人の実話は、引きこもりの多くが病気ではなく、だれにでも身近な数多くの問題を含んでいることを気付かせてくれます。
本書の内容は(耳が痛い話も多いけれど)、いろいろな世代で考えてみる価値があるのでは?

5年間取材を続けた筆者が「…人間という器は実に伸縮自在だ」と述べるように、きっかけをつかみゆっくりと変わっていく主人公に心からエールを送りたい!

ニュースタートを切った若者たちが目指すもの ★★★★☆
大勢の若者が非生産的な引きこもりを続けていることが社会問題となっている。この本には主に、引きこもり生活を続けていた若者たちが、「ニュースタート事務局」というNPOでのさまざまな体験を通して、ゆっくりとではあるけれども社会化していく過程や心情が描かれている。

取材対象となった引きこもりの若者たちは、テレビを見たりCDを聞いたり本を読んだりゲームをしたりビデオを見たりしている。生産はしないけれども、消費はしている。つまり、社会人ではないけれども、消費者として存在していることがわかる。

戦後日本は、村社会や家族社会といった「社会」を切り捨て、世界有数の「経済」を手にいれた。一極集中による新興住宅地の林立や農村の過疎化などによって地域社会が破壊され、家族は「個」の集合体と変貌し、企業社会だけが残った。「社会」という、複雑で非合理的で非効率的なものから、「経済」という単純で合理的で効率的なものへという、戦後日本がたどってきた道のりの果てに、純粋に消費する存在として、引きこもる若者たちの群れがあらわれた、ともいえるだろう。
この本に登場する若者たちは、「社会」を拒絶する人生から、失われた「社会」を作り出す人生へと、ゆっくり舵を切っている。それは、バブル以降の日本社会そのものが向かうべき方向でもあるのだろうと感じた。

ただ「社会」への「脱出」のためだけでなく ★★★★★
身近に「引きこもり」の知人がいないせいか、どことなく遠い印象を持っていたが、本書を読むと誰にでも起こりうる(少なくとも真面目に人生に取り組んでいる限りは)症例だということが納得できる。本書の姿勢は、引きこもりは病気ではなく、社会との関係作りを訓練することによって克服できるという、言うは易しだが至極もっともな実践論である。それが成功したか失敗したかは別として、まずは表紙にカミングアウトした(元?)引きこもりの人たちに拍手を送りたい。また、見かけは上手に社会と折り合いをつけているように見える大人に対して「会社に引きこもっているのでは」と言い放つ彼らのシニカルかつ真剣な問いかけは決して無視できるものではないだろう。ここまで「回復」するのに費やした本人および周囲の努力と熱意には素直に頭が下がる。単なる取材対象としてではなく、同じ人間としてぶつかっていく筆者の暖かい視線も同様。本書は決して医学書でも「引きこもり対策マニュアル本」でもなく、みんながどうやって困難を克服してきたか、今も苦しんでいるかの貴重な記録だからである。

いくつか気になった点としては、①本書はある一つの支援団体を通してのケース・スタディのみで構成されており、他の例や考え方も取り上げて欲しかったこと、②本書で取り上げているのは、実際には本人も社会との関係修復を望みなおかつそのための対処も用意されている「軽度」の例が多く、医学的治療を必要とするような「重度」の例が紹介されていないこと(もっとも取材自体かなりの困難が予想されるが)。これらの取材が可能なら、その後の追跡レポートとともに是非読んでみたいものだ。