今読み返しても、シュールレアリスムの文学者による一癖も二癖もある奇妙な物語がひしめき合って、ヨーロッパの暗部をのぞき見る思いがします。謎めいて暗く、豪華な印象が行間から立ち上ってくる感じです。
それもそのはず、翻訳者の一人は澁澤龍彦で、お約束のサドなんかもちゃんと入っているのです。
文学作品が主なので、怪奇という点ではあまりダイレクトでなく、おとぎ話的に映るかも知れませんが、読み進むうちにそのなんとも得体の知れない不気味さに忘れならない本となることと思います。
「解剖学者ドン・ベサリウス」のベサリウス!のサンダルの下でぎしぎしと鳴る人間の関節の音や「仮面の孔」のハイエナの毛深い腕にはまっていく手袋など、30年前に初めて読んだときの印象が未だに深く刻まれています。
入り組んだ迷宮のような世界に誘ってくれる翻訳もお見事な一冊。
星4つはホラーという点ではちょっと違和感があるのと、エンターテイメントとしては妙な本である点が、「怪奇小説傑作集」というタイトルとずれがあると思える点です。だまされた、と感じる人も中にはいると思いますが、読んで損のない異色の本です。