錯綜と完成
★★★★☆
明治以降の日本の短篇怪奇小説を、全3巻で構成したアンソロジー。
3巻には、昭和35〜平成5年の17篇が収録されている。吉行淳之介、星新一、中井英夫、吉田健一、澁澤龍彦、高橋克彦など、ビッグ・ネームの作品がそろえられている。このシリーズの編集方針は、著名な作家(特に純文学系)の「知られざる」怪奇小説をピックアップすることにあったようで、それはそれで面白いけれども、食い足りない思いが残ったのも事実。
しかし、逆に言えば日本の近現代文学が常に怪奇な要素を孕んできたということなのかも知れない。日本的な情念の世界は、キリスト教世界とは異なり、簡単に人間外の世界とつながってしまう。怪奇な物と自己とが気がつかないうちに溶け合ったりしてしまうのだ。その意味では、より恐ろしい世界なのかも知れない。