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障害学への招待

価格: ¥2,940
カテゴリ: 単行本
ブランド: 明石書店
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障害学を、という宣言 ★★★★☆
21世紀に入る前に日本で「障害学」として多様な言説をまとめた業績は大きい。障害と一言にいっても多様に語られ得るし、語られてきた。それがどのような既成の学問や新たな思考法をまとめて障害学としての宣言を得ることができるかを示した、画期的な論考集である。
そして、多様に語られ得ることが各論文の間にある温度差にも表れており、それはまた今後の思考、発想の基にもなるであろう。社会学的な論文が中心であるが、それゆえに却って、今後はさらに横断的な考察を要求している分野でもあることが分かる。哲学・倫理学、医学・生理学、法学、経済学等の分野も巻き込んでいく必要があろう。障害学会の設立の契機を与えた意味も大きく、そうした知見からの研究は進行形である。ただし、それ以前に何をもって障害学という名に値するかという方向性を示している点が肝要である。当事者視点が崩れれば障害学も崩壊する。
ちなみに、市野川論文に対する引用の批判は読者に任せられてよい。歴史的な文脈を無視していないことは読めば分かる。あるいは、敢えてそのようにも読める書き方をしている可能性がある。これはむしろ、読者がその引用の仕方と解釈を自分の視点でどう判断するかという、普通に学術的な問題である。
過去の時代に生きた人の言説への扱いについて ★★★☆☆
 内容的には、あえてコメントするほどのものではない。ただ、過去の時代に生きた人々の言説の取り扱いについての基本的な考え方に違和感があるので、記載しておこう。

P134
 ヒポクラテスのこうした冷淡さは、しかし、その科学的思考の代償である。・・・ヒポクラテスにとって、治癒の見込みのないことが判明している患者に、にもかかわらずかかわりをもち続けることは、呪術師や祈祷師のふるまいと同様に非科学的で、詐欺まがいの行為として映ったのである。

 先ずヒポクラテスは、今から2千年前の人間であり、その言説が一見科学的に見える思考も、近代的な科学概念とはほど遠い地点にいることを前提としなければならない。さらに、当時の医術とは、現代の生物学的医学とは異なり、また術としての水準であった。不治の病にかかった人間に、効果のない治療を施すことの無意味さを知り得たからこそ、無益な手段を使用しなかったと私は考えている。過去の人間の言行を批判する時には、その人間が生きていた時代を考慮してこそ、批判となるのであり、それを単純に現代と比較することなど、科学的思考とは無縁である。冷淡さとは逆の温情ある考えと思料する。