いまどきの真面目なよい子には,誤解や混乱をまねくのではないかと心配する
★★☆☆☆
ときには違った視点から考えることも必要だ。当たり前だと思っていたことに,ほんとうは誤解がひそんでいたりもする。また,へそまがりであるわたしは,ふつうと違ったことが書いてあるものを,ときどき読んでみたくなる。この著者の本を読むスタンスはこんなところ。
結構ふつうの本,というのがこの本を読んだときの印象。太字になっている用語も,ありふれたものであるし,その解説も多くは教科書的だ。「人が60兆個の細胞からできている根拠は何か」とか,「優性の法則」なんてものはないとか,という展開があればおもしろいのだが,これらはふつうに書かれていた。
DNAは生命の設計図ではない,獲得形質は遺伝するという「過激」なフレーズが,本の帯に書かれている。もちろんこれらについて,著者らしい記述はあるが,これらの主張はわたしにはいまひとつ興味がわかない。
なお,いつも思うことなのだが,この著者の本が中高生向けの新書になるのは驚きだ。きちんと勉強していて,批判的思考に慣れている中高生にはよいが,いまどきの真面目なよい子には,誤解や混乱をまねくのではないかと心配する。いや,批判的なものの見方の育むことが大切だと思っているわたしが,このような消極的なことではいけないのかも。
過去と決別する遺伝子と進化の解説
★★★★★
メンデル、ラマルク、ダーウィン等々、生物の進化と遺伝の解明に幾多の人々が取り組んできた。
ドーキンスの利己的遺伝子学説等、一見説明になっている様な単純化が可能で物語に類似したした説明が支持を受ける時がある、しかしそれも長くは続かない。
世代によっては医師・歯科医師であっても、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない、最も頭のいいものか、そうでもない。それは,変化に対応できる生き物だという考え」を披露し、擬似生物学をこの世の処世に持ち込んでしまう愚を冒す。
本書は、池田清彦による現在までに分った「遺伝子と進化」の仕組みと、未解明部分の仕分けを、「ちくまプリマー新書」の対象世代でも理解可能にする挑戦である。