この本はひとりの職業人として両足でたつ成長記録といっても大げさにはならないだろう。
筆者の誠実な文章には感銘をおぼえる。彼には吐露しなくてはならない苦汁の経験を本に書かれている以上にされたのだろうと察せられる。それだけに、彼の主張にはうなずけるのだ。
インターネット上で「翻訳の仕事」をキーワードに検索すると、翻訳家になりたい人を対象にした学校ビジネスが盛んで、みんなが憧れるのは、出版翻訳やメディア翻訳であることが容易に分かる。そして翻訳家に「なりたい人」は山ほど居るが、質を満たす人は不足しているという。
ひょんなことから企業内で翻訳(いわゆる実務翻訳に関わるようになって10年余りの自分の経験からすると、フリーランスの方が恵まれいるとも思えないし、実務翻訳が出版翻訳に比べて低いスキルでできるというものでもない。社会的な意義が小さいということもない。しかし、そういう立場での職業翻訳家を目指す人のためのガイドは、「フリーランス」や「翻訳家」になりたい人にはあまりアピールしないかもしれないな、などと思った。