‘稀代の語り部’が紡ぐ、小説の醍醐味あふれる傑作
★★★★☆
英国が生んだ‘稀代の語り部’との評判をうけて、初めてゴダードを読んだ。本書は、’86年のデビュー作で、日本では’96年に翻訳されて以来、新たなファンを獲得しつつ読み継がれ、今に至るも版を重ねており、著者の代表作といっていい程のロングセラーである。
ストーリーは、元歴史教師で現在失業中のバツイチ男が、半世紀以上前に、確たる理由もなく婚約者に去られ、閣僚の座を追われた青年政治家ストラフォードの謎を、ある資産家に雇われて探るというもの。彼はストラフォードが著した回顧録(メモワール)をもとに、解明の旅に出る。
最初は比較的単純に見えた謎の探求が、意外な妨害を受けたり、またさらに新たな事件(事故か自殺か、それとも殺人か)や謎を生んだり、登場人物たちの敵味方が入れ替わったりして、迷宮を思わせるような小説世界が展開する。そして彼はついに真相を著したストラフォードの追記(ポストスクリプト)を手に入れるのだが・・・。
二重底、三重底の、深まってゆく謎のつながった物語は上・下巻分冊合計822ページものボリュームもなんのその、息つく間なくずいずい読み進むことができる。
本書はまた、大学で歴史を専攻した著者ならではの、ふたつの世界大戦をはさんだ英国の自由党、保守党、労働党の内閣組閣抗争をはじめとする政治状況や婦人参政権運動も正確に記され、ロイド・ジョージ、チャーチルといった実在の人物も登場するなど小説のバックボーンもしっかりとしていて興味深い。
本書は、‘当代随一のストーリーテラー’ゴダードの評判どおりの、小説の醍醐味あふれる傑作であり、“巻措くをあたわず”の読書が楽しめること請けあいである。ミステリーファンのみならず一般の小説好きの方にも是非おススメしたい。