説林(ぜいりん)編がおもしろい
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韓非子には章が複数あって、説林(ぜいりん)というのはその一つ、説話を集めた章となっています。具体的なエピソードが沢山書かれているので分かりよく、おもしろい。たとえば、
「お前さん外交官か侍従かどっちになりたい?」と王が聞いてきたとAが言った。Bは、「ほんならアンタ、侍従がよろしおま。なんでかってそんなん、外交官としてデキるやっちゃねんから、侍従やっとってもどうせ外交官として使われるがな。印綬が二つもらえるさかい、そっちのほうがエエに決まっとるわ」。AはBの言葉に従い、後に侍従兼外交官として活躍した。
と言うようなもの。ちょっとフランクな感じにしてみましたが、こういったナルホドとなるようなエピソードが説林(ぜいりん)の章には目白押しでございます。
さて、この第2冊には老子に就いての解釈が記された章もあり、その理解を深めることに役立つとも思われます。そして極めつけ、内儲説(ないちょぜい)という章は、これも説話集になっています。おもしろくて為になる話が読みたい人に、本書は是非ともオススメです!
中国古典の、《深さ》。
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まだ、全4巻を読了した訳ではないのですが、読めば読むほど面白いのが、この『韓非子』です。中国古典の世界は、理想主義から現実主義まで幅広い多様性を持っていますが、この『韓非子』は、『孫子』や『荀子』と並ぶ《現実主義》を代表する哲学書です。中国古典の中でも、最も実用性が高い本と言っても、良いのかも知れません。とりあえず全巻を読了したら、何度でも繰り返して読みたい、《名著》だと思います。
古代中国のリアリスト
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この「韓非子」第二冊は、韓非という人間を考える上でなかなか興味深いものになっています。
まず第一に、ここでは老子についての解説がされています。厳正な法秩序を訴える韓非子と老子とでは意外な組み合わせの様ですが、よく考えてみるとこの両者は結論では大いに異なりますが、根源的な人間観で通じるものがあります。どちらも人間というものを奇麗事や飾り事では治まらないものであるとして、そういった人間の現実の姿を見つめようとする姿勢で共通しているのです。
第二に、説話の非常な多さです。それも史実に基づいた説話で、抽象的な概念やいわゆる怪力乱神の類の話ではない。だから読んでいて大変説得力があります。それらの説話の裏には、韓非ならではの厳しい理論があるわけですが、具体的な裏付けがされているので反論しにくい。このような実証主義的な面が、韓非子を単なる机上の空論に終わらせないものにしています。
勝れた政治論、人間論であり、その冷静な現実観が知的な刺激を満たす、読みごたえのある書物です。確かに受け入れにくい部分もありますが、その説得力はおそらく誰も否定できないのではないでしょうか。
中国マキャベリズム - 法家思想の集大成(岩波文庫第2冊)
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韓非子は秦の統一のころの韓(洛陽付近)の人で、その政治理論の評判を聞いた始皇帝に請われて秦に赴き、そこで同じ筍子の門下生だったといわれる楚の出身の丞相(総理大臣に相当)の李斯に怪しまれて毒を仰いで自ら命を絶つことを命じられた。韓非子は自著で君主に意見具申することが如何に難しいことがを説いているが、それを自らの人生の悲劇で証明してしまったのである。「矛盾」「蛇足」などの言葉を生み百家争鳴期の思想家のなかでは歯切れのよい批評的文章を書いた人物としては、かの孟子と双璧をなすだろう。よく「孫子」との優劣を議論されるが「韓非子」は政治理論を説き「孫子」は軍事理論を説く。もとより役割が違うのであって、そういう議論は不毛だと思う。「韓非子」が説く非情なマキャベリズムは、現代人にも傾聴に値するものがあるだろう。秦以降の中国の歴史は、その後儒家思想を建前として、実は法家思想に基づく皇帝専制政治が清代まで続くのである。
『老子』の解説がみごと
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第二冊で注目すべきは解老篇と喩老篇です。
韓非子の説く『老子』の解釈はとてもすばらしい。
爽快です。
文章に勢いを感じます。