丸山は何を問うていたのか
★★★★★
表題ともなっている「忠誠と反逆」をはじめ、「歴史意識の『古層』」といった有名な論文を収録した丸山真男の論文集であるが、いちばん最後に収録されている「思想史の考え方について」を読み通して初めて、何か腑に落ちた感を覚えた。川崎修の解説にあるように、この本が「最も丸山真男らしい丸山真男が現れている」ものであるとするならば、丸山が問い続けていたのは、「自分」から導き出され、「自分」に還っていく、そのような問題系ではなかったか。
「近代啓蒙主義者」と形容されるのも故なしとはできない丸山ではあるが、西洋近代的な理性や合理性、あるいは中国的な思考様式をもってしては括りこめない何か、よくわからないが確かに感じる何かへの探求こそ、ここに収録された諸論考に丸山を導いたのではなかったか。自らの外を取り巻き、内を満たし、それなしでは考えることも自分であることすらもできない「何か」。
この「何か」への問いへのこだわりが、見方によっては「日本嫌い」とされたり「ナショナリスティック」とされたりするのだろう。だが、丸山が垣間見せるような、頭で考えるほどには思うようにならぬ自らに対する苛立ちや、気がつけば親先祖の代から自らへと受け継がれている「伝統」への気付きと無縁でいられる人間が、いったいどこにいると言うのか。
そのような観点から評者は、丸山の日本思想史への思い入れや「古層」へのこだわりを理解する(むろんこれは評者の勝手な解釈に過ぎない)。個人的には、「他人事としての研究」よりも「我が事としての研究」にシンパシーを感じる質なので、読み始める前に比べれば、丸山への好感度は明らかに高まった。