石に宿る庶民の精神
★★★★★
表紙にでんと構えるのは万治の石仏。かの岡本太郎氏をして
「世界各国をいろんなものを見て回ったが、こんなに面白いものは見たことがない!」
と驚嘆せしめたという逸物です。
かつて諏訪の地に住んでいた私にとっては懐かしく、
本書の中にこの石仏の謎に迫る一項があったのみでも買いでした。
しかしそんな私の興味本位をはるかに越えて、実に重厚な内容の一冊です。
日本人の信仰と言えば、著者五来氏の言葉で言うなら「誤解された仏教」や、
政治と密着した神話などが思い浮かべられがちですが、五来氏は石に宿る素朴な自然信仰から、
日本独自の文化と、そこに育まれてきた庶民の精神を見出してゆきます。
全編自信に満ち溢れた堂々とした筆致で、”日本人としての誇り”を感じさせる一冊です。
いや「日本人」としてくくるよりは、我々の祖先から受け継がれてきた精神の矜持と言うべきでしょうか。
今も路傍に佇む石地蔵や道祖神。
そのなにげない姿に、僕らの祖先の本当の気持ちが今も引き継がれている。
それを体で感じられた時、本書の読後感はさらに清冽なものとなりました。