人が集まれば
★★★☆☆
ウィキペディアについては元来が「みんなの言うことは大体正しい」という前提を基に編纂されている辞典であり、
大方の項目は完全ではないにしろ正しい記述になっているのではないでしょうか。
本書では正確な記述を行う際の議論や法律の問題などに踏み込み、
現時点ですでに起こっている問題点を指摘している。
確かに本書で挙げられている点については、なにがしかの答えを出して、
乗り越えていくべき懸案ではあるのでしょうが、
ウィキペディア全体の信頼性が云々というのは正直拡大的にとらえすぎているように感じられた。
ウィキペディアを通じた良質なメディア論
★★★★★
「誰でも気軽に参加できる百科事典」ウィキペディアの実態を
詳細にまとめた一冊。
ウィキペディアによる企業・行政の不公正な書き込みの実態、
2ちゃんねるさながらのユーザーの書き込み、
ウィキペディア記事を裁判の証拠資料とした事例の記述など、
ウィキペディアに関する数々の事例が紹介されており、
現在のウィキペディアの課題を浮かび上がらせている。
ただし、この著書は
「記述内容の信頼性に問題」「プライバシーを保護できないシステム」などと
ウィキペディアの現状・課題をただ語って終わるのではなく、
権力やメディアに関する話に踏み込んで論が展開しており、
メディア論の著書としても非常に良質なものになっているように感じた。
(特に、表面的にはインターネットと対立する企業・マスメディアが
社会情勢の変化に合わせて融和していくとした著者の分析は秀逸だと思う)
もちろん、この本は学術書ではないので、
学問的な妥当性については疑問の余地があるが、
適度な読みやすさと内容の深さの両方を兼ね備えているので、
ネットの問題、メディアの問題に興味がある人は
一度呼んでみることをお勧めしたい。
事件がおこり問題ユーザはいるが,既存の百科事典をこえるものがあるウィキペディア
★★★☆☆
本書では日本語版のウィキペディアでおこった事件,管理者の仕事のたいへんさや管理者になるひとがすくない現状などが書かれている.事件に関しては部分的には知っていたが,10 件をこえる事件や 10 人をこえる問題ユーザの解説を読むことで全体像を把握することができた.
解決のむずかしい問題もあるが,いまのところはそれほど深刻な状態ではない.日本語版に特有の問題もあり,他言語版とはちがう発展のみちをたどる可能性も示唆している.末尾の「ウィキペディアはどこに向かうのか」では「百科事典的だが,既存の百科事典の価値を超える何か」,「他に代用のきかない何か」がうみだされると予想しているが,それははっきりとことばで表現されてはいないとしても,すでにあるように私にはおもえる.
ウィキペディアとその裏で・・
★★★★☆
ウィキペディアといえば、最近は検索サイトでの結果で上位に表示されることもあり、
精度が高い情報が比較的多い情報源と捉えて、百科事典的に利用している人が
増加している気がしますが、そのウィキペディアの起源やシステムなどについて特に
問題点に注目した書になります。
最近、記事数が50万項目を超えて更に急速に拡大しつつある日本語版が抱える問題を
英語版や他のソーシャルメディアと対置しながら、様々な立場の人(管理者、アンチ
ウィキペディア、弁護士など)の意見を収録して今後の展望についてまとめる、といった
内容になります。
今後も引き続きウィキペディアを中心として発生する問題として、著作権、編集合戦、
誹謗中傷、無断転用、当事者編集などが考えられるわけですが、内部では責任者を
置かず、「議論、合意を経てシステムを構築する」という、非常に崇高にも思える
理想状態への途上であるとも考えられ、「万人が安心して利用できる極めて中立的な
百科事典」になるのを期待したいところです。
気になったのは、ウィキペディアやmixi、ブログなどのソーシャルメディアは
著者らによると「権力に徹底的に対立し社会を確信し、不甲斐ないマスコミの代わりに
代表的な反権力であり続けた」とありますが、私には、そのような意気込みも期待も
なく、かといって全く利用価値が無いとも思っていないわけで、ここまで複雑化した
ネット社会に今さらながらインターネットのごく初期の古きよき時代を思い出して
しまいました。
いかにもウィキペらしい
★★★☆☆
扇情的な内容なのかと期待(??)して読みましたが、実際にはウィキペディア日本語版と周辺的各種サービスにまつわる騒動を並べただけのものです。一人の論者が集中して論じる内容ではなく、従って集合知のあり方に関する洞察といったものは期待できません。こういう「客観性」って、「独自研究」を排除するウィキペディアらしいなと思います。
その中では、ウィキペディア日本語版の有名管理者、Ks aka 98さんとTomosさんを含んだ対談があり、この部分が内容としては一番しっくり来ます。お二人ともウィキペの良心みたいなところがありますしね。
実際に参加するなり、2ちゃんのスレッド読むなり、MLを読むなりしていて、ウィキペの内実にある程度通じていれば、読む必要がない本です。「Web2.0は素晴らしい」「インターネットは全てを解決する」などのナイーブな信仰をお持ちの方には良い副読本になるかもしれません。その場合の教科書としては西垣通さんの『ウェブ社会をどう生きるか 』、池田信夫さんの『ウェブは資本主義を超える 』をすすめます。