ただし、「エッセイ集」といっても、空海の思想はおそろしく難解な哲学体系であるため、一部の文章は、容易に理解できたものではありません。逆に、空海についてかなり詳しい方には、部分的に重複する個所のあるこの文集に、すこしうんざりしてしまうかもしれません。
しかし、同じことが繰り返し別の角度から書かれているのは、初学者にとっては重要な内容が把握しやすくて、むしろ便利です。また、本書では思想・哲学ばかりではなく、空海の文化人としての活動や彼に向けられた庶民信仰についてもいくつかの視点から述べられています。それらは読み物として非常におもしろいものがありますし、また日本文化に対する知見も広がります。