身近にある地名や神社に「八幡」が付いている、そのいわれは?
★★★★☆
子供の頃から親しんできた八幡神社、その「いわれ」はと聞かれてもわからない人が多いのではないか。
神への信仰は山から発し、神が宿る山頂の磐座(いわくら)から山麓へ、山麓から人里へ、神を迎え(春祭り)、収穫が終わると再び山へ送る(秋祭り)。神を常時まつるようになって、神社ができたらしい。そして、仏教が伝来すると神仏習合がおこり、明治になって神仏廃止令がだされると神宮寺は消えたらしい。
著者によれば、八幡神の発祥地は豊前国宇佐(九州、国東半島付近)だそうだ。
『八幡宇佐宮御託宣集』に「辛国(からくに)の城に、はじめて八流の幡(はた)と天降(あまくだ)って、吾は日本の神と成れり」とあり、八幡神の源は外来神である。
また、『豊前国風土記逸文』に、「昔者(むかし)、新羅の国の神、自ら度(わた)り到来(きた)りてこの川原に住みき、すなはち名を鹿春(かはる)の神といひき」とあり、八幡神はこの新羅神に源を発している。
『日本書紀』にある神武天皇が、東征の際に筑紫国の菟狭(うさ:宇佐)に着き、菟狭津彦(うさつひこ)・菟狭津姫(うさつひめ)が出迎えている。この時、菟狭津姫を侍臣の天種子命(あめのたねこのみこと)に娶(め)わせており、この天種子命が後の「中臣氏」の先祖であるとして、宇佐国造家が中臣氏との関係をもつに至ったとされている。<私見だが、このことからも神武東征は作り話ではないと思う。>
この本は、八幡神についてわかりやすく書かれている。関心のある方は、一読されるとよいのでは…。
本筋以外にも面白い記述の含まれている著作
★★★★★
神仏習合の動向の中で、八幡神が果たした影響力の強さを強調して書かれた新書。全八章構成で、第一章「神奈備信仰(神体山信仰)と仏教の伝来」第二章「神仏習合現象の始まり」で神仏習合の全体を示した後、第三章から第七章までで宇佐八幡の成立と発展を軸とした神仏習合の流れを説き、第八章で石清水八幡宮や鶴岡八幡宮が宇佐八幡宮から八幡神を勧請して勢力を強め、八幡信仰が変化しながら全国に広まっていく様子を概説していく。
著者の執筆の意図は宇佐八幡宮の歴史的な形成を説くことによってその地域をエンカレッジしていくことでもあったのはあとがきで示しているが、読んでみた感想としては、第一章で述べられていた神体山信仰のありようや、ところどころで言及している修験道が神仏習合で果たした役割など、本題から外れたところにも面白みがあった。八幡神については田村圓澄「仏教伝来と古代日本」第四章・第五章で述べられていた記述と重複した部分が少なからずあり、こちらでは宇佐の地域史的な視点でより詳細な記述があったし、写真・図表・地図を駆使した説明は理解を助けてくれた。
読んだ後には神社を見る目が少し変わってきそうな一冊。
八幡信仰の謂れが分かる
★★★★★
自分の生活圏の中に八幡神宮がないのは珍しいのではあるまいか。旅をして、他所にも八幡さんがあったのかと不思議に思うことがある。それもそのはず、全国で約四万社あるというのだから当然である。
本書は、一般の読者にできるだけ理解しやすいように書かれているので、ありがたい。
八幡神は当初より神仏習合の神として成立した。まずは神仏習合の一般的動向が述べられている。伝来の仏教が日本に流布・浸透していくには神祇信仰に接近・習合していく方がよかったのである。神宮寺の出現をもって、神仏習合現象は地方豊前国宇佐から始まり、中央にも伝わった。八幡神・八幡大神・八幡大菩薩へと成立・発展し、その宮も八幡宮・八幡神宮・八幡大菩薩へし変遷した。
その本家本元は宇佐八幡宮である。この地だけに八幡大菩薩の広大なふるさとが広がるのである。この地独特の文化と遺産が各章に述べられている。
ふるさとの山河は、ときに優しく、ときに厳しく、八幡なる仏神に注がれ、この仏神を育んでいった様を、訪れた人に語りかけてくれる。
八幡神についての入門書に最適。
★★★★☆
宇佐八幡宮、石清水八幡宮、鶴岡八幡宮を筆頭に、祀られている神社は全国に四万社はあると言われている九州宇佐地方の神・八幡神(八幡大菩薩)。
本書のタイトルは『八幡神と神仏習合』となっているが、それぞれ同じレベルで説明がなされるのではなく、メインの内容は八幡神の説明であり、そのために不可欠な神仏習合をプラスしたという感じなので、神仏習合についてはその起こりから明治時代の衰退までそこまで詳しく説明されているわけではない。なのでタイトルに惹かれて本書を手に取ろうとした方にはそこに少し注意が必要かもしれない。
つまり、神仏習合についてガッチリ学びたいのであれば本書はあまり適していないということだ。
資料の引用が多く、また扱う内容的にもどうしても漢字や言葉遣いが難しくなってしまうので、決して読みやすい本ではないとは思うが、読めばなぜ八幡神がこれだけ全国に広まったか、なぜ宇佐地方が独特の文化圏を持つようになったのか、ということがよくわかるようになっている。
八幡神に興味がある方にとっては最適の入門書になることは間違いない。