アマテラスと瀬織津姫
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著者の探求は遠野市上郷町の伊豆神社の由緒書で見た祭神・瀬織津姫という美しい響きを持った神名に心惹かれたところから始まる。
記紀からは消されているこの女神は偽書ともされる異端の書『秀真伝(ほつまつたゑ)』では男神・天照大神の后神とされているが、この謎多き女神が最も集中して祀られているのが早池峰−遠野郷である。
著者のフィールドワークによると遠野の近郷・東和町の大澤瀧神社では、瀬織津姫が祀られている本殿と対面する巨岩に天照大神が祀られており、二神が一対として祭られていた痕跡が見つけられるという。
伊勢神宮の祭祀形態についての考察も優れている。遷宮が始められたのは天武・持統朝であるが、一対で祀られていた天照大神・瀬織津姫を融合して女神・天照大神とすることを目的とした改革であったのではないかという仮説が出されている。
東北で家庭に祀られているオシラサマも男女二体で祀られているが、天白神=瀬織津姫はアマテラスの祖型神の一神で、その対なる神として男神・天照大神があり、それがオシラサマ信仰に反映しているというのが著者の仮説である。
東北の民俗を研究したソ連の東洋学者ニコライ・ネフスキーの書簡が引用されている。福島のオシ(ン)メサマ(お神明さま)について書いてあるものだが、その形態はオシラサマと変わらないという。
「やはり男女二体、男神の方は烏帽子を冠って、女神の方は丸坊主」
「男神のご神体をほごして見ると、頭は丸くて平つたいもので簡単に顔を画いてあった。『天照皇大神』と云ふ字も書いてあった。」
やはり男神のほうが天照大神になっているのである。
また円空も烏帽子姿の天照大神を彫っているが、それが次作の『円空と瀬織津姫』に繋がっていくのだろう。