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シェル・コレクター (新潮クレスト・ブックス)

価格: ¥1,890
カテゴリ: 単行本
ブランド: 新潮社
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   ケニア沖の孤島、モンタナの雪山、ポートランドの漁港、タンザニアの密林。本書に収録された8つの短編小説は、世界のさまざまな場所を舞台にし、主人公たちも14歳から60過ぎの老人までと、実に多様だ。そして彼らは、めくるめく流転の果てに、ひとりきりで絶望の淵に立たされる。表題作の盲目の貝類学者は、奇跡の人と奉り上げられたあげく、息子を死なせてしまう。「たくさんのチャンス」の少女は、好意を寄せる少年と父親に裏切られて、失望していく。しかしその先で彼らに訪れるのは、ささやかな救いであり、幸福である。

   その好例といえるのが、内戦の続くリベリアで人を殺め、アメリカに流れてきた青年を主人公にした「世話係」だろう。母親を亡くし、職場をも追われた青年は、浮浪者となり、やがて自分だけの菜園をひっそりと作り始める。故国と自分との悲惨な現状を、植物の成長とともに少しずつ乗り越えていく姿からは、全編に通じる自然への畏怖と、人生に対する限りない肯定感を見て取ることができる。一見、脈絡なく登場する「クジラの心臓」や「メロンの濡れた果肉」といったイメージたちが、互いに共鳴し、ラストシーンでつながりあうとき、読み手は、著者の力量に改めて感服するに違いない。

   アンソニー・ドーアは1973年生まれ。本書は彼の第1短編集である。本国アメリカで高い評価を得たその作品の数々は、詩的で美しい文章、卓抜した表現力、スケールの大きさ、読み手の想像を遥かに凌駕する巧みなストーリー・テリングなど、どれをとっても20代の新人作家の手によるものとは思えないほどの才気を感じさせる。デビュー作にして、豊潤な味わいをたたえた1冊である。(中島正敏)

天才だ! ★★★★★
最初に図書館で借りて読んで、どうしても読み返して自分の所有にしたくなって購入してしまいました。
幻想的だけれど、けっして幻想に逃げない描写。
繊細で緻密でダイナミックな世界。
これがデビュー作?
世界にはすごい作家がいるものだ。
呼吸の仕方がめちゃくちゃかっこいい ★★★★★
この短篇集に収められた一つ一つの物語すべてが愛しく、切なく、そして
あまりにも衝撃的です。それらの物語は、それぞれ異なった呼吸の仕方で
静かに、時に大きく息づきます。それが美しい。そのそれぞれの呼吸の仕方
がめちゃくちゃかっこいいんです。

本のタイトルにも繋がる『貝を集める人』や『ハンターの妻』、『ムコンド』
が特に一般的評価の高い物語ですが、僕が一番気に入り、一番感動し、一番
衝撃を受けたのは、『長いあいだ、これはグリセルダの物語だった』でした。
そのタイトルの通り、ある姉妹の姉グリセルダについて物語は展開していきます。
背が高く、成熟した身体を持つグリセルダはあるきっかけで金物喰いをする芸人
に惚れ、家を出て行ってしまいます。あとに残された冴えない妹ローズマリーは、
姉のいない家で母とひっそりと日々をすごします。しかし、決して楽しい生活で
はなく、息苦しい生活を強いられることもありました。
そんな中、一躍、金物喰い芸人として有名になった姉グリセルダが町で凱旋公演
をすることになったのです。姉妹の久しぶりの再会。
この再会の席で、妹ローズマリーの感情が爆発します。このシーンが鳥肌が立つ
ほど凄まじく、そして衝撃的なのです。それでいて切ない。町の人々は常に噂を
していたのは派手に生きる姉グリセルダ。その一方で、ひっそりと懸命に毎日を
生きてきた妹ローズマリー。

ぜひ、この物語の素晴らしさを堪能してください。
大自然とそこに住まう者たちを描いた短篇集 ★★★★★
圧倒的な自然の叡智、静けさや気配を確かな描写力でものしながら、深い深い人間ドラマが紡ぎ出される珠玉の短篇集。主人公たちは性別、年齢と多彩である。人里離れたところで暮らす盲目の老海洋学者、海がある町に引っ越してきたティーンエイジのちょっぴり不安な娘、妻に対して秘密を抱え込んだ不惑の男性、内戦から逃れてきた黒人青年の数奇なその後の人生・・・。どの作品にも共通しているのが、ほろ苦く、でも最後に一縷の希望を垣間見せてくれる、喪失とささやかな再生の物語であるということ。彗星のごとく現れた来年、三十路を迎える若い米国男性作家の筆致とはとても思えないような、ある種の貫禄、技量の豊かさを感じさせるすごい処女作品集です。ぜひご一読あれ。
海辺の宝石 ★★★★★
あたりをサンゴ礁で囲まれたアフリカのとある静かな砂浜で、愛犬のシェパードと共にじっと貝を見つめる1人の老人。アメリカからやってきたこの貝類学者は、幼い頃に視力を失ってしまったけれど、足の裏から手の指先まで、全身で自然を感じることができる。波の音を聴きながら、のんびりと海岸を散策し貝を拾うという彼のささやかな日常。しかし、老人の側で起きた、たった一つの「奇跡」によって、彼の人生は思わぬ方向へと進んでいってしまう・・・。危険なほどに美しい幻想的な大自然を背景に、シンプルな文章で綴られた表題作『貝を集める人』をはじめ、O・ヘンリ賞を受賞した『ハンターの妻』など、8編を収録したとびきりの短編集。ある作家の言葉を借りるなら、この作品には短編小説というよりも㡊??“短い神話”という表現がピッタリ。「最近、短編小説を読んでないなぁ」っていうあなた。ぜひこの本を読んでみてください。そこでは優しくまばゆい光を放った宝石たちが、息を潜めて読者たちを待っています。
水をモチーフとした物語 ★★★☆☆
8編からなる短編集です。

詩的で美しい文章が特徴としてあげられると思います。各短編とも水が重要な小道具になっています。水と言っても、それは打ち寄せる波であったり、小川の流れであったり、カーペットの上で溶けて染みのように広がる雪であったりするのですが、いずれも面々と受け継がれていく生命の神秘を暗示、あるいは象徴しているように思いました。また、男性が女性に感じる畏怖や畏敬の念なども良く表されていると思いました。詩がお好きな方には嬉しい短編集ではないでしょうか。