人は、どの人物が中心で、どんな行動が重要か、という枠組みを決めて物語を語る。焦点があり、関心の集中と、周辺の切り捨て、編集された抑揚がある。
でも、天使の目は、すべての人のすべての動き、鳥の影や空の色、車の音、街の響き、人がいない部屋の静けさ、無音のままにそこに息づく生活の気配にも、同じように注がれる。何の重みづけもせず、やさしく、淡々と。
読み進むうち、その文体にふんわりと自分の波長が合って、すばらしい視界が広がる。あらゆるものが豊かな意味を持ち、あふれるように存在しているこの世界の、小さな一角の、わずかな時間の、無限の広がりが。
他の人に一生懸命読むことを勧めるような本ではない気がする。
ただ、自分が感じたあたたかな浮遊感を、忘れないようにしたい。
・・・と思っちゃう一冊。