訳者の主観が邪魔
★★★☆☆
読めば読むほど、訳者の主観が邪魔になる。
この本は、大別して2つの内容が書かれている。
1つめはペンローズの訳本・・・斬新な提案で興味深い(★5つ)。翻訳の確度については受容するしかない。
2つめは訳本の解説・・・この解説が曲者。事実に基づく客観的内容が記載されていると信用して読み始めると、事実確認されていない部分で、さも事実と錯覚させるような書き方をして訳者の主観を入れている箇所がある。訳者の主観を知りたいのなら訳者の本を読む、この本には必要ない。おかげでペンローズの斬新な提案に水を差された感がある。解説は読み飛ばしたほうがよい(★1つ)。
便利な一冊
★★★☆☆
ペンローズの脳・認知観を,手軽に理解できる便利な1冊。
おもしろいっちゃあおもしろいのだが,あまりに無根拠なペンローズの突飛な提案自体はまあそんなものかというものだが,なぜそう考えるにいたったのか,ペンローズの思想的背景もふくめて理解しやすくまとめられている。
それは訳者による解説に頼るところが大きいが,それにしても訳者の物理学原理主義とでも呼べるような世界観からの,他の世界観についての蔑視は(毎度のことだが)読んでいて恥ずかしくなる。訳者自身による文章自体も,ここまで自分に酔えるか?とあきれてしまい,いったい量子脳理論の理解に何の役にたつ話なんだとイライラしてくるが,不思議なことに読み終わってみると,明確な一つのイメージをもたらしてくれているから大した筆力だ。
ともかく,ツイスターなどペンローズ本流の理解には当然大して役に立たないが,その量子脳理論についてはよくわかる1冊であることは間違いない。読みやすい。
待望の再刊
★★★★★
1997年徳間書店より刊行されたものの文庫版です。以前のものは図書館で読みましたが、気に入って買おうと思っていたら、既に絶版でした。私にとっては、待望の復刻版、となりました。「心の影」が出版された後の話題について、いろいろと集めたもので、ペンローズオリジナルのものや、インタビュー、竹内薫、茂木健一郎両氏の解説など、多方面から楽しめます。時系列的には、「皇帝の新しい心」や「心の影」を前もって読んだ方がいいような気もしますが、それだとかなり長い道のりになりますので、いきなり本書から入るという読み方も十分に有り得ますね。
ペンローズの分厚い本を読むべきか読まざるべきかの判断を助ける本
★★★★☆
ペンローズの著作「皇帝の新しい心」「心の影」の要点をざっと眺めて、これらのオリジナル著作を読む時間を投資すべきかどうかの判断を助ける一冊です。(内容の賛否はおいておいて、上の意味で星4つ)
そうか、ゲーデルの不完全性定理(=チューリング機械の停止問題)と、「意識の計算不可能性」の前提から、古典力学(=計算可能)を超えた存在である量子力学(波動関数の波束の収縮)が意識を説明するはずだ、ということがペンローズの主張なわけね、と把握出来ます。個人的には、ペンローズのゲーデル流論法は面白いと思いましたが、意識の計算不可能性を説明するには古典論でなく量子論でないといけない、という論法には如何しても飛躍がありすぎると思えました(注)。また、彼の主張は客観的実験で検証可能な新予測を含まないことは明白であり、それは物理とは言えないでしょう。そういうわけで「皇帝の新しい心」「心の影」は急いで読まなくても良いな、と判断出来ました(感謝!)。また、今よりも若い竹内氏と茂木氏の文章は面白く読めました。(内容がペンローズ寄りすぎで「それはどうかなぁ?」と思う処や、物理的議論が舌足らずな処も少々ありましたが(CPT対称性を語らずして、T非対称性を述べられても...))
(注)自らの科学知識の"バランス"を保つためにも、複雑系の本(カウフマンなど)や複雑ネットワークの本(バラバシなど)も読むべきだと思います。他にラフリン著「物理学の未来」やストロガッツ著「SYNC」もお薦めします。これらの本を読むと、意識の問題は多体的相互作用(→創発)の観点からのアプローチも可能では、と思えるようになります。("More is different"(P.W. Anderson, Science 177 (1972) 393-396)なのです) 数学者としてのペンローズは「物理学は階層的である」ということを良しとしないから、自ら進んで袋小路に入り込んじゃったのかなぁ。