「新しい公共」って何?
★★★☆☆
鳩山前首相が、「新しい公共」について議論するための
私的な円卓会議を主宰しているといいます。「小さな政府、
大きな公共」がキャッチコピーなのだそうです。本書で
紹介されているアキュメン・ファンド(途上国の生活向上
を目指す事業に投資する民間機構)は、まさしくそれにあ
たるものでしょう。
ただ、著者がここに行き着くまでのルワンダ、ケニア、
タンザニアなどでの実践は、並大抵のものではありませ
んでした。特にルワンダでのジェノサイド(大量虐殺)を
めぐる現地の女性活動家の運命の記述は、戦慄を覚え
る程におぞましいものでした。そして、ここで著者が見聞
した上からの援助が空洞化する経過は、今後わたし達が
途上国の貧民支援を考える上で基本となる教訓だと思い
ます。果実だけを取得するのではなく、そこへのプロセ
スにも合わせて思いを馳せたいものです。
ムハマド・ユヌスらが始めたマイクロ・ファイナンスにソ
ーシャルビシネスとの連携、それ以前にアマルティア・セ
ンが幸福の指標を自己実現の程度とする提唱など、これ
らを加えると「新しい公共」の骨格のひとつが、おぼろげ
ながらみえてくるように思いました。
この本はすごい。貧困層を支援し世界を救うとは、どういうことか? 根底から揺さぶられる。
★★★★★
何が、著者をここまで突き動かすのか?
アフリカにマイクロファイナンスを定着させ、
女性や貧困層の支援事業を実行する著者。
だが、その支援をするアフリカ女性たちから裏切られ、足下をすくわれ、
プロジェクトが何度も失敗に終わる。さらには、ルワンダの大虐殺が起こる。
それでも、何度も立ち上がって、奇跡を起こして行く。
恐ろしい目にも会いながら、現場で活躍する著者は、まさに英雄だ。
この本を通して、社会支援とは何なのか? 改めて問い直さなければならないだろう。
貧困層を単に保護の対象として見ることが、そもそも間違っているのだから。
パワフルな行動力が圧巻、それと、
★★★★★
著者のパワフルな行動力が圧巻です!
思考>行動 な日常生活を送っている自分。
思考<行動 な人に最近魅力を感じる自分。
そんな自分に気付くことができました。
--
それと、
ルワンダ大虐殺の話は衝撃でした。
それまで共に起業活動していた仲間が、
刑務所に入ってしまったり、虐殺の危機にさらされたり、
本能は、こんなにも恐ろしいもので、
運命は、こんなにも影響の大きいものなのだと、
心底考えされられました。
叡智に溢れた、得がたい本
★★★★★
本書は若くしてアフリカの援助活動にかかわり、その反省の上に立って、低開発国の社会起業を支援するファンドを独自に立ち上げた、アメリカ人女性の自叙伝である。その内容はまさに波瀾万丈と呼べる自らの生涯を10年もかけて書いたというだけあって、とても密度が濃いものである。
市場に任せるのでもなく、慈善を一方的に施すのでもない、第三の道としての社会起業というやり方。その草分けでもある著者の成功の秘訣は、人の話に注意深く耳を傾けて柔軟に対応し、現場に詳しい人に仕事を任せて適材適所をはかり、その場で実際に働く人びとに自信と責任をもって取り組んでもらうという3点に凝縮できるように思う。しかしそれ以上に大事なことは、「人の役に立っている」という実感を感じながら仕事ができるという労働環境であろう。これを欠いてしまっては、著者の試行錯誤を通じて蓄積された素晴らしい見識も、よくある経営哲学に成り下がってしまう。
本書の叙述に奥行きを与えているのは、ルワンダでの経験である。かつての同僚たちがジェノサイドで加害者と被害者にわかれ、争った末に生き延びた姿を再び目にしたばかりか、彼女たちから直接話を聞くという得がたい体験は、個人の力の限界とともに希望を持って各人がすべきことをすることの大切さを教えてくれたに違いない。
世界はすべてが繋がっている(ブルーセーターの話がそれを象徴している)。だから「すべての人が社会に役立てるように」、各人が自分にできることのできるような環境をまずは一緒に作りましょう。カバーでにっこりと微笑む筆者の笑顔から、そんなメッセージを受け取った気がする。
社会投資ファンドというコンセプトにたどりつくまでの社会起業家のオディッセイ
★★★★★
非営利ベンチャーキャピタルである「社会投資ファンド」の草分け「アキュメン・ファンド」の創始者ジャクリーン・ノヴォグラッツが書いた半生の奮闘記である。具体的なエピソードな豊富で、しかも試行錯誤の数々の経験から生み出された思索がいたるところに書き綴られた本書は、日本語訳で400ページを越える大冊だが、けっして最後まで飽きることがない。
著者のジャクリーン・ノヴォグラッツは、社会問題の解決にビジネスの手法を持ち込んで成功してきた先駆者たちの一人である。「社会起業家」という存在を日本に知らしめた原点とでもいうべき名著『チェンジメーカー−社会起業家が世の中を変える−』(渡邊奈々、日経BP社、2005)にも紹介されているのでご存じの人も少なくないだろう。
バージニア大学卒業後、国際的大銀行チェース・マンハッタンで国際貸付審査の仕事に3年従事したのち、周囲の反対を押し切って国際援助の世界に大きく踏み出したジャクリーン。少女時代に修道女の感化で抱いた「社会を変えたい」という夢の実現のためである。アフリカに赴任して出会った現実は厳しく、理想と現実のギャップを日々かみしめる日々である。自らが動くことによってさまざまな軋轢を生じながらも、アメリカ人女性らしい率直さと行動力で突き進む彼女の姿からは、英語でいう Learning by Doing を文字どおり実践している人であることがわかる。行動に思索がともなうことによって、一歩一歩前に進んでいくのである。
本書のタイトルにもなった「ブルー・セーター」のエピソードではないが、まったく関係ないと思っていた人間どうしも、実は何らかの形でつながっているのである。ある研究によれば、知り合いの、知り合いを6回繰り返していくと、ほぼ世界中の人たちとなんらかの形でつながるのだということを聞いたことがある。本書は原題を The Blue Sweater: Bridging The Gap between Rich and Poor in an Interconnected World というが、「つながっている」(interconnected)というコトバがキーワードである。あなたと私は、たとえ直接会ったことがなくても、またこれからの人生で直接会うことがなくても、どこかで何らかの形でつながっている。だから、私にもあなたにも関係のない問題など、この世の中には一つもない。
社会投資ファンドもまた、金銭という万国共通のモチベーションをうまく善用して問題解決に取り組んできた社会問題解決手法の一つである。社会問題を解決するという志(こころざし)とやる気をもち、しかも能力の高い社会起業家を選んで、プロジェクト単位ではなく事業そのものに投資という形で支援するファンドである。しかし、投資姿勢は性急に高利回りを求めるベンチャーキャピタルやPEファンドではない。配当は変化という忍耐強い投資(patient capital)である。慈善というフィランソロピーではない。
「見返りが少ない可能性を認識しつつ、比較的、長期にわたって投資される資金だ。企業が離陸し、さらに上昇できる手助けする、広範囲な経営支援サービスを提供する」(P.327)。ハンズオン投資としての性格ももちあわせている。
社会問題解決にビジネスの手法を持ち込んだものには、最近よく話題になるBOP(ボトム・オブ・ピラミッド)マーケティング、グラミン銀行で有名なマイクロファイナンス、社会投資ファンドとさまざまなものがあるが、何が共通して何がどう違うのか、読者自らが考えていただきたいと思う。発展途上国に住む人たちを消費者としてのみ見るのか、自らが自立したいという意思をもつ存在と見るのか。もちろん単純化はできないが、それぞれに一長一短がある。
ビジネスと社会問題解決は、そもそも出発点は異なり、アプローチの方法も異なるが、「社会起業」という形で一つの方向へとコンバージェンス(=収斂)していくのではないだろうか。とくにリーマンショック以降は市場原理主義に対する違和感が多くの人のあいだいに拡がり、社会性を意識しない企業経営は長期的に成り立ち得ない状況となりつつある。
社会変革のために、自分がどういう形の貢献ができるのか、それぞれの立場で考え、たとえ小さなものであっても取り組んでいきたい。そういう気持ちをもつすべての人に読むことをすすめたい。理想主義を抱いた若い人だけでなく、かつて理想主義をもっていたすでに若くない人にも。
著者は「プロローグ」でこう書いている。「・・このままでいいはずがない。20代の頃の理想主義が、40代になって戻ってきた。ただの願望ではない。地に足をつけ、実際主義(プラグマティズム)をもって前を見るのだ」、と。著者と同年生まれの私は、このコトバに強い印象を受けた。