たとえば「すなかけ」では、生まれてはじめて学校をさぼった少女が、体から砂の出る特異体質の女性に出会うことから始まり、魔法をかけられたかのように透き通った日常が描かれる。たんねんで細やかな人物や情景の描写は、そんな生活を大切にしたくなる少女の気持ちの変化を、実に自然なこととして読み手に感じさせる。一方で、繊細なあまり壊れてしまいそうなはかない雰囲気も、物語と絵の両面から少しずつかもし出されていく。そして、今までの穏やかな微風が突如突風となったかのように、ダイナミックなクライマックスに至る様は圧巻としか言いようがない。
唐突に世界が開けるような驚くべき瞬間は、収録されたほかの短編にも立ち現れ、その息をのむようなまばゆい感動こそが、五十嵐作品の醍醐味(だいごみ)である。人間本位の考え方では説明のつかない奇々怪々な世界が描かれるため、ややグロテスクな面もあるが、すべてあるがままのものとして豊かに描かれるため、決して後味は悪くない。奇想天外を表現する最高の手段のひとつとしての漫画が堪能できる、鮮烈な1冊。(横山雅啓)
しかし、本当にすばらしいのですが、一つの作品についてあまりに情報が多く、また純粋であるために読んでいて少し疲れてしまったのも事実です。
私見に偏ってしまいますが、僕はマンガは漫画であって欲しいと願う人間であり、マンガが娯楽の域を逸脱することには少し賛同しかねるのです。
保守的な考えなのかなあ…
しかし使い捨てのようなその場㡊??のぎのマンガがゴソゴソと溢れてきている今の状況から考えると、こういうマンガに出合えたことは本当に嬉しいことでもあります。
この短編「そらトびタマシイ」は、いわば畡形、グロテスクなモノやコトが全編をおおっているのだが、それが淡々と日常に組み込まれ、読んでいて全く違和感がない。さらに描かれている物語は決してポジティブなものとは言い難いのだが、読後に素晴らしい爽快感をおぼえてしまうのだ。
連載終了後初の短編「そらトびタマシイ」が掲載された後、1年半ほどの間隔で「熊殺し神盗み太郎の涙」「すなかけ」「lepain et le chat」各短編が発表された。そしてそれら全てがグロテスクと日常、現実世界とイマジネーションの奇跡的な融合によって珠玉の作品になっている。
すべての人に是非読んでほしい1冊だ。