とはいっても、そういう固いメッセージが前面に押し出されているわけではない。作風は固いどころか、変幻自在だ。しっかりとコマ割がなされているけれど、いきいきとした絵が枠線を破って流れ出てきてしまいそうなのだ。頁を開けばすぐさま、イマジネーションの世界を堪能できる。
不思議な話だなぁ、と思う。でも、すぐに、耳を澄ませてみれば世界の成り立ちとはそもそも不思議なものなのだ、ということに気づく。上巻と同じく、数ページのショートショートで構成されていて、どれもストーリーと言うものはなく、アイディア一発勝負といった感じが潔い。
絵もうまい。草むらが描かれれば草いきれをリアルに感じるし、海が描かれれば波の音が聞こえてくるのだ。この人の漫画のすごいとこは、同じようなコマが重なる毎にそこに描かれているものの印象が深くなっていくところだ。草いきれは幾重にも重なり息苦しくさせるし、波の音は幻聴みたいに耳を離れない。気がめいった時なんかに開くと、なんだか新鮮な空気を吸い込んだ気持ちになれそう。
ただ、カラー作品と、最後に何点か収録されているイラストはやっぱりカラーで見せてほしかった。