シリーズの転換点
★★★★☆
先行作では脇役だったウサコが語り手をつとめ、
タックの母親問題が描かれるシリーズ第五長編。
タックがタカチに痛ましい身の上話をしている所に、たまたまウサコが居合わせてしまう
「ホームカミング」というパート、そして、その場面に至るまでの経緯や本シリーズ特有
のディスカッションによる推理の試行錯誤が描かれる回想のパートが交互に展開されて
いく、カットバックの構成が採られています。
ディスカッションのお題は、オートロックのマンションの出入り口に挟まれている
小石、ボアン先輩が小学生の頃に見た幽霊、隣家の敷地で飼い犬を放置する
未亡人、誘拐した子どもにぬいぐるみを与え、すぐに解放する誘拐犯……etc.
どのお題も、最初は軽いノリで議論がスタートするのですが、次第に白熱し、結末では、
予想もしなかった結論が導き出されます。そして、それらがのちに伏線として機能して
いくこととなるのです。
ところで、本作では、前作のタカチの父子関係に引き続き、タックの母子関係に
焦点が当てられるわけですが、それ以外にも同級生のストーカー事件が扱われ、
タイトル通り、人間関係における「依存」のあり様が、執拗に描かれていきます。
そうした、あまりに生臭いストーリー展開や、ウサコのいささか生硬で、
教条的なフェミニズム的視点に違和感を覚える向きもあることでしょう。
ただ個人的には、このようなミステリの枠にとどまらない大河物語的展開は非常に興味
深く、シリーズが完結する際にどのような着地を見せてくれるのか、今から楽しみですね。
《匠千暁》シリーズの第五長編
★★★★☆
先行作では脇役だったウサコが語り手をつとめ、
タックの母親問題が描かれるシリーズ第五長編。
タックがタカチに痛ましい身の上話をしている所に、たまたまウサコが居合わせてしまう
「ホームカミング」というパート、そして、その場面に至るまでの経緯や本シリーズ特有
のディスカッションによる推理の試行錯誤が描かれる回想のパートが交互に展開されて
いく、カットバックの構成が採られています。
ディスカッションのお題は、オートロックのマンションの出入り口に挟まれている
小石、ボアン先輩が小学生の頃に見た幽霊、隣家の敷地で飼い犬を放置する
未亡人、誘拐した子どもにぬいぐるみを与え、すぐに解放する誘拐犯……etc.
どのお題も、最初は軽いノリで議論がスタートするのですが、次第に白熱し、結末では、
予想もしなかった結論が導き出されます。そして、それらがのちに伏線として機能して
いくこととなるのです。
ところで、本作では、前作のタカチの父子関係に引き続き、タックの母子関係に
焦点が当てられるわけですが、それ以外にも同級生のストーカー事件が扱われ、
タイトル通り、人間関係における「依存」のあり様が、執拗に描かれていきます。
そうした、あまりに生臭いストーリー展開や、ウサコのいささか生硬で、
教条的なフェミニズム的視点に違和感を覚える向きもあることでしょう。
ただ個人的には、このようなミステリの枠にとどまらない大河物語的展開は非常に興味
深く、シリーズが完結する際にどのような着地を見せてくれるのか、今から楽しみですね。
男と女
★★★☆☆
単行本(2000年)→幻冬舎ノベルス(2001年)→本書。
匠千暁シリーズの一冊。かならず、前作『スコッチ・ゲーム』から順番に読まなければならない。そうしないとストーリーがまったく分からない危険がある。
推理小説というのではない。主人公たる匠千暁の過去、また登場人物たちの人間関係を描いた物語だ。シリーズをずっと読んできて、思い入れのある人には感慨深い作品だろう。私もそうで、それなりに感動したのだが、いざ振り返ってレビューしてみようと思うと、評価に困る作品でもあった。
いろいろ矛盾もあるし、ディテールのバランスが悪いような気もする。いつも繰り広げられる登場人物たちの推理ゲームにもキレがない。
テーマは理解できるし、主人公たちへの思い入れも感じられるのだが、うーん。
取りあえず言えるのは、シリーズのファンなら読むべき、そうでない人は手を出さない方が無難ということだけだ。
激白・・・
★★★★☆
所々にミステリらしき謎解きはあるが、メインの物語としては登場人物達の心情と自己欺瞞の告白。
このシリーズを読んでいる読者にはかなり大きな動きの有る作品だが、そうではない読者には少々冗長かもしれない。
心を守るため、無意識が真実を捻じ曲げて記憶するような暗黒の記憶が引きずり出される。
かなりヘビーな物語ではあるが、その後にきちんと救いがあるので、読了後は爽快感が残る。
戯言の感傷小説
★★★☆☆
「匠千暁」シリーズ中の一作。前作でタカチの過去が明らかになったのに続き、本作では主人公タックの過去が語られるという筋書き。本シリーズは登場メンバ間の関係が希薄だったデビュー作「解体諸因」(傑作)を除くと、青春感傷小説になっていて、ミステリ・ファンが読むには辛い。
今回はユッコが語り手となって、登場人物の観察、考察を述べていくのだが、それにミステリ味を加えようとする試みが既に間違っていると思う。タカチ、タック、ユッコ等と登場人物をカタカナのニックネームで書くのだに恥ずかしいのに、彼らに各々の感傷を語らせ、作品を不必要に長くする手法は如何なものか。読者層を相当若く設定しているのであろうか ? 彼らの世界に同化できない読者にとっては苦行である。
個人的に作者に期待しているのは奇想と解決の鮮やかなロジカル・ミステリである。そうした読者は、本シリーズを読むなとという事かもしれない。