クィーンの美しき仕事
★★★★☆
クィーンと言えば本格ミステリの王道を行く作家であるが、本作はミステリ風味を極力排し、人間の尊厳を慎ましくも高らかに謳いあげた感動作。
本作の背景には1950年代初頭に起こった、いわゆる「マッカーシー旋風」がある。中世の"魔女狩り"にも似たこの政策にクィーンは義憤を覚えたのであろう。クィーンの仲間の作家にも捕らえられた人がいたのかもしれない。
事件の舞台はニュー・イングランドの田舎町。舞台をここに設定したのも、アメリカ入植者が最初に切り開いた土地で、アメリカ民主主義の発祥の地という意識があるのだろう。事件は単純で、村で殺人事件が起きるが、たまたま村にいた外国人浮浪者が犯人として捕まえられる。ここで、村人達は"魔女狩り"のようにロクに調べようともせず、浮浪者を犯人として郡の警察に引き渡そうとする。それを村に住む判事とその甥が正義感から押し止め、やがて真相を明らかにして行く...。
事件そのものにトリックめいたものはなく、探偵クィーンも登場しないという不利を承知で、民主主義、人間の尊厳の大切さ、思想・信条の自由を訴えたクィーンの情熱は素晴らしい。ミステリ・ファンならずとも是非読んで欲しい一作。