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天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

価格: ¥680
カテゴリ: 文庫
ブランド: 光文社
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可愛い不思議 ★★★★☆
 「消えちゃった」「天来の美酒」「ロッキーと差配人」「マーティンじいさん」「ダンキー・フィットロウ」「暦博士」「去りし王国の姫君」「ソロモン受難」「レイヴン牧師」「おそろしい料理人」「天国の鐘を鳴らせ」の11篇が収められている。
 南條竹則さんによる新訳である。日本でも有名な作品もいくつか含まれているが、訳文が新鮮で面白かった。半分くらいが本邦初訳。
 それにしても、不思議な小説家である。とらえどころがなく不思議だが、とても可愛い雰囲気なのだ。わけがわからない。でも、読んでいるとふんわりした気分になる。
 解説に爆笑する。
全く結末が予想出来ず意地悪だが何処か心惹かれる奇怪至極な英国奇談短編集。 ★★★★★
独特な幻想と詩情を湛えた作風で好事家に愛された英国短編小説の神様コッパードの傑作11編を厳選して収める日本オリジナル短編集。本書に収録された作品には奇怪な謎が答を出されないまま判断を読み手に委ねる形の物が多く、読んでいる途中で作者がどういう風に物語を終わらせるのか予想がつけ難く全く落とし所が読めません。それでも読み始めたら意地悪だが何処か心惹かれる作品世界に夢中で没頭し忽ち魅力の虜になるでしょう。
『消えちゃった』夫婦と友人の三人が車で旅する内奇怪にも一人また一人と消えて行く。『天来の美酒』父が死んで相続した故郷の古屋敷の酒蔵で見つけた麦酒(エール)と謎の美女が男の運命を急変させる。『ロッキーと差配人』耳が遠く何時も笛を吹いているロッキーが奇妙奇天烈な方法で農場の牛の流行病を治し差配人を助ける話。『マーティンじいさん』「最後に埋められた者が死者の奴隷になる」という言い伝えを信じるマーティンじいさんが姪モニカの死後に味わった地獄の様な憂鬱な日々。『ダンキー・フィットロウ』四六時中眠ってばかりいる男ダンキーと駱駝みたいな顔の女の呪われた結婚生活の顛末。『暦博士』暦を作る暦博士がこの世が終わるという悪魔の流したデマを聞いて迷う話。『去りし王国の姫君』詩人が死に幽霊と化して初めて愛に芽生える姫君との神秘的な愛の形。『ソロモンの受難』変人ソロモン教授の「意思で人を殺す能力」に怯える夫婦が経験した世にも恐ろしい出来事。『レイヴン牧師』お人好しで心優しいレイヴン牧師が審判の日に天使から意外な裁きを受ける話。『おそろしい料理人』傲慢な料理番の女が大旦那から辞職を言い渡され散々拒むのだが・・・・。『天国の鐘を鳴らせ』農夫の息子から役者に憧れて進みやがては伝道師になる男の数奇な一生の物語。悲恋や苦悩の果てに道半ばで命尽きる男の夢幻的情景のラストが激しく胸を打つ私が最も愛する一編です。
突拍子もない、風変わりな魔法が働くところ。そこは、コッパード・ワールド ★★★★☆
 本文庫巻末の「解説」で訳者が、<職業的訓練を受けた作家なら絶対にやらないだろうと思わせるような、意外な展開を見せることがあって、(後略)>p.282 と記している、そうした、どこに連れて行かれるのか見当がつかない面白味、最後にとんでもない所で置き去りにされ、途方にくれてしまうような独特の妙味を感じましたね。

 収録短篇のなかでは、冒頭の「消えちゃった」が面白かったな。<三人の男女がスピードの速い自動車に乗って、フランスを旅していた。>の一行からはじまる、思いっきり奇抜で、風変わりなストーリー。自動車のメーターが異常な数値を示す辺りから、三人の男女の旅路はどんどんおかしな方向へとずれて行き、途方もないことになってくる、その人を食った面白さといったら。「ひゃっ!」と奇声を上げたくなるラストまで、無類のおかしさが味わえる逸品。本書の南條竹則の訳もなかなか良かったけれど、私にとっては、英国の怪奇・幻想短篇集 恐怖の愉しみ (上) (創元推理文庫 (535‐1)) で読んだ平井呈一訳が、やはり一番ですね。あの平井訳は、あれはもう、名人芸というしかないのだろうなあと、今回改めてそう感じました。

 あと、「マーティンじいさん」の話の途中で、登場人物のひとりがいきなり、謎のように死んでしまうところ。「暦博士」の話の最後、「ああ、ここで話を終わらせるっていうのが、いかにもコッパードらしいや」と、置いてけぼりをくった気分にさせてもらったところ。そんなところも印象に残りました。

 「消えちゃった」と同レベルの面白さを持つ収録短篇がなかったので、星は四つとしましたが、こうした無類のおかしさ、奇妙な味のする作家の短篇集が読めるというのは、本当に嬉しいですねぇ。光文社古典新訳文庫の食卓に、どんな料理が並ぶのか。これからも楽しみです。