喜劇人ロッパの運命を左右した食の記録
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衣食住に、喰う・寝る・遊ぶ。食欲は人間の三大欲求なのであるからして
【食】をテーマに書かれた著作物に古今東西、名作傑作が多いのも当然の事であろう。
数多くの【食書】の中でも群を抜く面白さを持つ一冊がある。
昭和初期に喜劇の王様・榎本健一(エノケン)と並び称された喜劇人、古川緑波(ロッパ)。
この人の書いた悲食記は戦争末期の昭和十九年、全国的に食糧難の時代に、
ロッパが自身の持つ人脈と金脈を総動員し、なんとか美味い物にありつこうと東奔西走する様が
克明に描かれている怪作だ。恐るべきは、ロッパの食への執着!!。
例え戦時中であろうとも不味い物には目も呉れず、ひたすら美味い物を喰し満腹感を得ようとする。
ふぐを60人前食べたり、滞在中のホテルのメニューを上から下まで全部平らげたり。
そればかりか、少しでも多く割り当てにありつこうと、
帝国ホテルからの食券を自分と付き人二名分用意させた上、
付き人には一口も喰わせず、「許せ!」とだけ書き記す暴君振り。
そんなロッパが何でも存分に食べられる様になった戦後には人気を落とした事。
料理店から大好きな西欧風の味わいが消え、アメリカ風の味付けばかりが流行ってしまった事が
皮肉だ。まさに悲しい食欲の記録。日記の所々、ロッパが食から得たエネルギーの全てを
喜劇に注いで来たのが透けて見えるのも興味深いです。