「二分間の冒険」や「扉の向こうの物語」のような壮大なファンタジーではありませんが、学校を舞台にしたファンタジーとしては、とても楽しめました。ぼんやり、ガリ勉、ガキ大将、一匹狼、知らず知らずのうちにクラス内でレッテルを貼られている子供達が、次第に生き生きと素顔を見せていく様はリアルで感動的です。小学生時はこんな奇蹟が自分のところにも訪れないかと夢想したものでした。これは現役小学生の時に読んだ方が楽しめると思います。
いきなり始まるこの状況はとても面白い。きゅうに迷い込んだこの不思議なわけのわからない状況のなかで、作戦を考え力をあわせ、助け合って賢たちは、6年1組の教室から、学校中の茨をきりひらいていく。
この象徴的なお話の展開のなかで、賢たちは元気に動いている。生き生きとして、楽しそうだ。よんでいても、これって、絶対面白いだろうなあと思う。サイレンの音にめざめて、「おまけの時間にようこそ!!」という聡のこえを聞いてみたいと思ってしまう。
岡田淳さんらしい、ドキドキするファンタジーの世界だ。
辺りを見回すとクラスメイト達すべてが彼と同じようにイバラのつるに覆われて自分の席に腰掛けていたが、誰も彼もが目を閉じてイバラのつるに絡まれて死んだように眠っているのだ。 学校の中に張り巡らされたイバラは、生徒達個人個人をも取り込んで蔓延る。
たった一人、その中で目覚めた少年は自分のイバラをカッターナイフで切り裂き、そこから抜け出すと他のクラスメイトを囲むイバラも切り始めた・・・・・
十二時のサイレンの音と共に始まる、不可思議な世界。奇妙な空間。やがて目覚め始めた生徒達はそれをおまけの時間と呼びだす。
誰もが学校の中で、固い校舎の中で、行き詰まる思いしたことはないだろうか? あたかも傷つけることはないイバラのつるに縛られて、眠りつづける生徒達のように。 イバラを取り除くと目覚め始めた生徒達は、鉈やカッターやナイフを持ち出してそれを切り裂く。
昨今、問題になっているそれらを手にして、彼らは見事までに使いのける。ナイフや鉈を小さな手に握り締めても、彼らはそれを互いに向けるのではない。自分達を拘束し、学校中をがんじがらめに縛り付けるイバラのつるを切り裂いていくのだ。 誰もがハッとするではないだろうか? 学校中を、そして自分達をも取り込んだイバラの強大な姿に。
だが、これを風刺的だ、象徴的だなどと考える必要などない。全くない。そんなものはすっ飛ばしてもいい。 下級生から上級生まで一丸となって自分達を縛るイバラを切り裂いて行く生徒達の一人にあなたもなったとき、それは必ず痛快なまでの心の安らぎをもたらすことだろう。