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ようこそ、おまけの時間に (偕成社文庫)

価格: ¥735
カテゴリ: 単行本
ブランド: 偕成社
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おまけの時間 ★★★★★
1日は24時間。
もうちょっと時間が増えたら、と思うことはないですか?
これはそんな「おまけの時間」を体験する男の子のおはなし。

作者は児童文学作家の岡田淳さん。
有名な作品には「こそあどの森シリーズ」「扉のむこうの物語」などがあります。


主人公の賢は、とくにとりたてて特技もない、ちょっとぼんやりな男の子。
授業中、お昼のサイレンのなるときに、突然不思議な夢を見るのです。
教室の中で茨に囲まれて動けない。そしてもう一度サイレンが鳴ると夢は終わってしまいます。
毎日同じ時間に繰り返すその夢を楽しむために、賢は茨を切ってみることに…。

自由になった賢が見たのは、同じように茨に囲まれて眠る同級生たち。茨だらけの学校。
驚いたことに、茨を切ると、次の夢からその人も目を覚ますことが分かります。
不気味な世界の「おまけの時間」をもっと楽しいものにするために
現実とはちょっと性格の違う同級生たちと一緒に学校中の茨を切ってしまうことにするのですが…。


この作品はストーリー自体はとても地味です。
心躍るような冒険があるわけではないし魔法もない。
知恵を絞って茨を切り、増えていく「おまけの時間」の仲間に状況を説明して…
みんなで力を合わせて茨を切る。ただそれだけ。
でもただそれだけのことにみんなが熱中していくその過程が
空を飛ぶよりも魅力的な時間に思えてくるのです。

「茨を切る」というのは、とても象徴的で
そこからいろんなものを読み取ることはできると思うのだけど、
この物語で作者が書こうとしているのは、警告や教訓ではないのです。
ただみんなで茨を切ることの楽しさを書いている。だから面白い。

そして筆者の意思を伝えるための論文ではなくて、楽しむための物語を書き上げたその作者の、
心を伝える短いあとがきが、私はとても好きです。
あまりに好きなので少しだけ抜粋したいとも思ったのですが
一部分だけ抜き出すと、そこに含まれる意味が変わってしまうような気がするし
物語を読んでから読むから伝わるものがあるのだろうと思い直しました。

読む人によって、いろんな読み方ができる物語だと思います。
仕事に悩む大人が読んだら、解決のヒントをみつけることもできてしまうかもしれませんよ!
眠りの森の教室 ★★★★★
「目を閉じて、開くと、いつもの教室が茨に包まれていた…。小学生の賢が、サイレンの音と共に突然迷い込んだ茨の教室。サイレンの音と共に現実の世界へ帰ることができるが、その間現実の時間はほとんど流れていない。毎日それは訪れる、時の狭間のような「おまけの時間」。周囲の茨を切ってやると、その子が次の日に目覚めることを知った賢は、目覚めた者と協力して学校中の皆を目覚めさせてゆく。現実世界ではつまらなかったクラスが、おまけの時間の中でかけがえのない仲間になってゆく…」

「二分間の冒険」や「扉の向こうの物語」のような壮大なファンタジーではありませんが、学校を舞台にしたファンタジーとしては、とても楽しめました。ぼんやり、ガリ勉、ガキ大将、一匹狼、知らず知らずのうちにクラス内でレッテルを貼られている子供達が、次第に生き生きと素顔を見せていく様はリアルで感動的です。小学生時はこんな奇蹟が自分のところにも訪れないかと夢想したものでした。これは現役小学生の時に読んだ方が楽しめると思います。

ようこそ、岡田 淳さんのせかいに・・・ ★★★★☆
ある日、松本賢は、お昼のサイレンが聞こえて、瞬きをすると、茨(いばら)にとじこめられた不思議な世界にワープしている。同じ教室、同じクラスメート、でも、全員が身動きが出来ないほどに、茨にとじこめられて眠っている世界に、突然いることに気がつく。茨から開放されたものは、めざめることができ、両方の世界であったことを覚えている。

いきなり始まるこの状況はとても面白い。きゅうに迷い込んだこの不思議なわけのわからない状況のなかで、作戦を考え力をあわせ、助け合って賢たちは、6年1組の教室から、学校中の茨をきりひらいていく。

この象徴的なお話の展開のなかで、賢たちは元気に動いている。生き生きとして、楽しそうだ。よんでいても、これって、絶対面白いだろうなあと思う。サイレンの音にめざめて、「おまけの時間にようこそ!!」という聡のこえを聞いてみたいと思ってしまう。
岡田淳さんらしい、ドキドキするファンタジーの世界だ。

児童書の傑作 ★★★★★
これが数々の岡田淳の名作の中でもそう知名度が高くないのが本当に不思議だ。 その学校には午後十二時になると鳴り響くサイレンの音が聞こえる。 ぼんやりとしていると他人に批評される主人公の少年はそれを聞いてふと気付いた時、彼はイバラに囲まれて自分の席に座っていた。

辺りを見回すとクラスメイト達すべてが彼と同じようにイバラのつるに覆われて自分の席に腰掛けていたが、誰も彼もが目を閉じてイバラのつるに絡まれて死んだように眠っているのだ。 学校の中に張り巡らされたイバラは、生徒達個人個人をも取り込んで蔓延る。

たった一人、その中で目覚めた少年は自分のイバラをカッターナイフで切り裂き、そこから抜け出すと他のクラスメイトを囲むイバラも切り始めた・・・・・

十二時のサイレンの音と共に始まる、不可思議な世界。奇妙な空間。やがて目覚め始めた生徒達はそれをおまけの時間と呼びだす。

誰もが学校の中で、固い校舎の中で、行き詰まる思いしたことはないだろうか? あたかも傷つけることはないイバラのつるに縛られて、眠りつづける生徒達のように。 イバラを取り除くと目覚め始めた生徒達は、鉈やカッターやナイフを持ち出してそれを切り裂く。

昨今、問題になっているそれらを手にして、彼らは見事までに使いのける。ナイフや鉈を小さな手に握り締めても、彼らはそれを互いに向けるのではない。自分達を拘束し、学校中をがんじがらめに縛り付けるイバラのつるを切り裂いていくのだ。 誰もがハッとするではないだろうか? 学校中を、そして自分達をも取り込んだイバラの強大な姿に。

だが、これを風刺的だ、象徴的だなどと考える必要などない。全くない。そんなものはすっ飛ばしてもいい。 下級生から上級生まで一丸となって自分達を縛るイバラを切り裂いて行く生徒達の一人にあなたもなったとき、それは必ず痛快なまでの心の安らぎをもたらすことだろう。