世界が広がる第二巻
★★★★☆
「ミミア姫」に焦点を当てた第一巻。丁寧すぎるあまり、ミミア姫の住む世界が若干狭く感じられた。この巻では「雲の都」の外を旅する「ルロウ」の視点が入り世界の広がりが感じられる。徐々に平和に綻びが現れる描写もあり、これからどうなるのかがとても楽しみ。
「愛人」から作風が変わった作者だが、この「ミミア姫」は「愛人」の正統な続編のように思える。全く作者は意識していないかもしれないが、個人的にはそう思う。話のテーマもよく似ているし。単品で読むより、一気にまとめて読む方法がオススメ。
ミミア姫の幸せを願う
★★★★★
作者は「エッチマンガ」を通して,純愛,恋のどきどき感と幸せを描き続けてきた作者.
高い画力を持つ.その絵は全くの独自なものである.作者の渾身の努力を感じさせる絵である。
作者の描くストーリーは,今までの作品群において,
必ず主人公の恋の成就というハッピーエンドに終わっていた.
しかし,(あの有名な)「愛人」においては,ついに,恋の成就が物語の結末とはならなくなった.
「愛人」の主人公の2人は,作られた出会いである.
その後の主人公の生活と心の交流が丁寧に描かれる.
もはや恋愛の範疇には収まらない.
「命の限りを意識しながらも,愛し合う若い男女」が描かれるのであり,単純な恋愛の物語を超えていた.
そして本作の「ミミア姫」である.
本作は,11歳になった主人公(ミミア姫)の体験が,日記風につづられる.
主人公の年齢からも,作品の雰囲気からも「エッチ」や「恋愛」の表現は封印されている.
その意味で,作者にとっては,全くの新しい試みであると感じる.
(上から目線で申し訳ないが)もし,活劇,恋愛,恋の駆け引きなどが描かれていたとしたら,
この画力,ストーリー構成力からみて,商業的な「大ヒット」間違いなしであったろうと感じさせる.
そうした、うける要素が徹底的に排除されているのは,たぶん,作者の良心であろう.
主人公であるミミア姫をはじめ,
登場人物(父,母,姉,友人,その他の人々)すべてが繊細に描かれている.
読む人それぞれによって,いろいろな読み方,感情移入ができる作品だろう.
活劇や恋愛がないにも関わらず、
本作は,エンタテインメントとして十分に楽しめる作品として仕上がっているといってよい.
その意味でも,間違いなく傑作である.
画力も卓越している.
2巻目では,季節は冬から春へ.
仲の良い老婆の死.不吉な体験.母親からの「あなたが生まれてきて良かった」
という強いメッセージ.そして,「親友」である「ルロウ」の帰還まで.
主人公のセリフは,詩のように美しく,絵の付いた素敵な物語になっていることが印象的.
本作ではあえて、ミミア姫の「11歳」に焦点があたっている.
何か,この11歳のときに,ミミア姫に何か劇的なことが起きるのだろうか?
しかし,私個人としては,ミミア姫の幸せを願う気持ちになっている.
その宿命にも関わらず,幸せをつかみ,平穏で,天寿をまっとうして欲しい.
主人公であるミミア姫は,間違いなく2つの宿命を持っている.
ミミア姫は王家に生まれた姫である.
この世界の一族の命運を握っている.
さらには,ミミア姫は,この世界の誰もが持っている「翼」を持っていない.
多分,最終巻にいたっても,この世界の不思議、ミミア姫に翼が無い理由などは全く解き明かされないであろう.
しかし,私は読者として,それでも大満足するであろう.
翼をもたない子供であるミミア姫が幸せに至ることを願うばかりである.
ミミア姫は,宿命をもつ以上,
多分、当たり前の恋愛,当たり前の幸せをつかむことはないように感じる.
かといって,一族の運命を背負って,英雄的な活躍、あるいは、命をかけた献身もないであろう
(というか,命をかけて欲しくない).
翼を持たないことの宿命を本人が引き受ける成長物語でもないだろう.
この世界に突然の破滅や変化が起きる劇的な物語でもないであろう.
こんなに長々と書き連ねたのは、
本作が非凡な物語であると強調したいからである.
私は,作者の天才が生み出す今後の物語を楽しみに待ちたい.
原始的魂
★★★★★
田中ユタカ、3月の新刊第2弾。アフタヌーンで連載中の「ミミア姫」2巻。
こちらは前巻から1年足らずでの発売ということでファンとしては嬉しい限り。
前の巻も当然読んだのだが、あれはどちらかというとこれから始まる壮大な物語の序章というか
驚くほど丁寧に主人公「ミミア」の生い立ちから11歳の生誕の日までのことや、
細かいバックボーンをじっくりと描いた「助走」の巻だと思っていて。
だからこの巻では1巻で固めた設定やキャラクター達が動き出すのではないかと予想していた。
そして見事に動いた。前の巻で皆とは違う姿・能力で生まれた彼女の設定も生かされ、
「サムライ」という概念も説明&展開し、またミミアの想い人である「ルロウ」も登場、
一気に世界観とキャラクターの面白さを大きく広げた田中ユタカの手さばきは凄い。
より深みをました細かなディティールや写実的な表現が面白い。
ただ一番凄い、というか自分が引き込まれるのは「感情表現の豊かさ」という部分です。
人間がもつ当たり前の嬉しい、悲しい、楽しい、怖いといった感情
または死や涙といった事象をめいいっぱいに広げ、掘り下げ、綺麗に畳んでいる。
例えばミミアがふと思ったことや感じたことに対し、大幅にページを裂いて
丁寧に感情の機微を拾い上げていく。今までの田中ユタカ作品からしてもこれは珍しい。
なんか抽象的な表現になってしまったが、つまりはこれ以上ないくらい一つの物事を深く描いているということを感じたのです。
そして主人公であるミミアのなんと素晴らしいことか。
どこまでも純粋で可愛らしく、ほんわかした彼女の姿は非常に凛としている。
そしてこの巻ではただ綺麗なだけじゃなく、人間らしい部分も描かれているのも大きい。
正に物語を引っ張っていくには抜群のキャラ造詣になっている。
彼女の仕草や表情のひとつひとつが何回も繰り返し読むのに耐えうる、魅力的なものになっている。
ちなみにこの巻ではファンタジー漫画らしくバトル要素も出てくるのでそこも注目。
主にルロウのシーンで格好良い雰囲気が垣間見れる。ちなみにミミアも少々戦ったり・・・。
そして今回はおまけページとして設定資料(文章付き)とイラストが8ページ収録。
もちろん作者の人柄が如実に伝わるあとがきも掲載。
いい表情がたくさんあって、温かい気持ちになるような漫画です。
また背景に関してもこだわり抜いた素敵な一冊。