訳者としては天才だと思う。
★★★★★
著者は、ダールの翻訳で知りました。
ダールの不可思議な世界を、なんとかそのまま翻訳しようと格闘している姿に敬服しました。
ダールの戦争体験、世界に対する斜めから見た雰囲気、子供に対する愛情など、微妙な表現をうまく翻訳していると思います。
あとがきなどで、悪がつよい点があるので、気に入らない人もいるようです。
本書を読めば、少しはあとがきの悪の強さが薄まるかもしれません
その後、著者の本を図書館とか本屋でみかける度に読むようにしています。
本書は、ダールの翻訳の後書きで、猫舌流英語練習帖を知りました。
言葉に対する真摯な取り組みには頭が下がります。
自分達の書いている規格やマニュアルの翻訳のReviewerになって欲しいと思うのは贅沢でしょうか。
好き嫌いが分かれると思います。
★☆☆☆☆
「日本語をこれほど見事に操れるボクは天才である」
との書名がよかったのではないか。
母国語に対する思いを、
これほどケバケバしく、
自慢げに語る本を他に知らない。
「翻訳」の技術というか作法を知るにはいい一冊。
それが最善の翻訳につながるかは別として。
あふれ出る日本語へのいつくしみ
★★★★★
半日で読める。だが半世紀後も、本書に籠められた趣旨は滅びないだろう。
(単行本刊行時は、井上ひさし氏の亜流かと速断し未読。いま後悔しつつ味読)
本書には、日本語の“天才”性を証明するために、万葉仮名、いろは、回文、
ルビ(ふりがな)など、先人の智恵や発想がいくつも登場する。
その魅力、その長所の顕彰――だが、盲従的な愛国主義や伝統回帰とは無縁。
なぜなら、英語という他言語に通暁し、ジョイスの訳業を経て獲得した
コトバの生理への共鳴が、著者の発想の根本にあるから。
そこに、《方言×共通語》に代表されるような、二項対立を常に相対化し得る矜持が
加わり(北海道出身者であることも奏功?)諧謔味あふれる強靱な説得力が生まれた。
世に、語学通の論客は多い。だがその中には、他言語への劣等感と日本語(と日本)
への恋着が倒錯し、いわば“愛という名の暴力”によって日本語をねじ伏せてしまう
ような方々もおられる。だが、本書はちがう。
本書の著者ほど、日本語へのいつくしみを感じさせる書き手はいない。
ときに猫好きを明言し、ときに戯文調を混在させる叙述は、好悪が分かれるかも。
しかし、例えば次のような一節。
「グローバルというカタカナ語は、ぼくの耳にどうしても愚弄張る、もしくは愚陋張ると
聞こえてしまう。愚弄はあなどり、からかうことです。愚陋は愚かで卑しいことです。
妙なカタカナ語の多用は、思考停止、少なくとも翻訳放棄です」(230ページ)
胸がすく、とはこういう文章をいうだろう。
戯文の装いをまといつつ、表現と内容に熟慮し、その統合に覚悟した人ならではの啖呵。
巻末の解説は池内紀。著者に感化されたような気合いの入った文章が微笑ましい。
漢字、日本語、ことばについて最高に面白い本
★★★★☆
漢字検定を受けています。漢字に興味を持っています。白川静先生の漢字の本は面白い。難解な漢字を明解に説明してくれます。
「日本語は天才である」は電車の中で読むつもりでキオスクで買いました。定価400円の薄い文庫本です。軽い読み物だと思って買いました。それが簡単な日本語談義ではありません。中、高校生に解りはしても易しくはないのです。白川静先生は碩学ですが、柳瀬尚紀さんも相当な博学です。難しいことを易しい日本語で説明します。ことばに日本語に興味のある全ての人にお勧めします。
"天才的な日本語"を縦横無尽に使いこなす柳瀬先生は"キサイ"(鬼才、奇才、機才)ですね。
★★★★☆
「日本語って こんなに凄いんですょ!」と、名翻訳家が言葉を尽くして日本語を褒めまくっています。翻訳家の立場から見た日本語の"潜在能力"が色々と例示されており、日本語の"柔軟さ"・"奥深さ"を再認識しました。
ありとあらゆるモノ(外国語、誤読、方言、言葉遊び、フォーマット...)を貪欲に飲み込む強力な"胃袋"を持っている日本語、そして、造語能力にも長ける日本語。そんな日本語を本書の中でも縦横無尽に使いこなす柳瀬先生。「将棋は奥が深い」と天才・羽生善治氏が唸るように、「日本語は天才だ」と言祝ぐ柳瀬先生は正に"キサイ"(鬼才・奇才・機才)です。つまり、素人目には有限にしか見えない将棋盤の中に無限の世界を羽生氏が見ているように、日本語における様々な可能性を柳瀬先生は見ていることが伝わってきます。(そのホンの一端を本書でご披露している訳ですね)
中高生にも読めるように意識して書いたとのことで、確かに難しいことは書いてません。しかし、日本語の話をしているはずが、いつの間にやら脇道にピョンピョンとそれます… まるで話題の"桂馬飛び"。それもまた、(慣れれば)心地よし。あっと言う間に"柳瀬ワールド"に引き込まれ、約2時間で読了しました。文庫本でお手軽に読めるようになって良かったですね。本書を読了して、"良質な日本語"をもっと沢山読みたいという意欲が沸いてきましたょ!!!
【追記】いろは歌のような「パングラム」についてはWikipedia等もご参照。英語にも「完全パングラム」はあります。(例:"Cwm fjord veg balks nth pyx quiz.", "Jumbling vext frowzy hacks PDQ.") 多分、母音字をあまり含まない単語(子音連続)が使える言語なら完全パングラムが作り易いかも?(Wikipediaにロシア語の例あり。チェコ語はどうなんだろう?) 日本語は("ん"以外の)全ての文字が母音を含んでいるので完全パングラムを比較的作り易いんですね。
【追記2】小関智弘さんの本によると「"治具"の語源は"jig"」とのこと。思わず「日本語って天才!」と唸りました。