いわゆる学術書ではなく、あくまで人間に視点を置いた本ですので、地質学を勉強する方には向きません。
主に学者がその説に至ったプロセスを、専門的な知識を持たない人にわかりやすく紹介する本です。
予備知識もいらないので、「スノーボールアース?何それ?」と興味を引かれた人は読んでみてください。
読んで専門知識がどうこうなるようなものではありませんが、単純に面白いです。
地球がまるごと凍りついていたという説は、じつは19世紀の中ごろルイ・アガシという人物により示されていたらしい。その後も似た説が出ては消えを繰り返したという。ならば、なぜいまにわかにスノーボール・アースが再注目されているのか。それは、その根拠が揃ってきたからだ。この本は、現在のスノーボール・アース仮説の旗ふり役である地質学者ポール・ホフマンを中心に据え、彼らの示す仮説の根拠を仔細に紹介していく。とくに後半の、スノーボール・アース肯定派と否定派の論争は、やや込み入ってはいるが読みごたえ十分。高度なディベートの論戦を本を読みながらに体験できる。
全体としては、原著の出された2003年現在も論争に決着はついていない感じ。とくに「スノーボール・アースが多細胞生物の爆発的発生の引き金になった」という説は、終わりの数ページで何案かが取り上げられているだけにすぎず、地質学から生物学への説の展開はまだこれからといった印象だ。
このように、スノーボール・アースはまだまだホットなものなので、いまから「最新科学の波」をなにかひとつ追い求めたい方にとっては、この本がおあつらえ向きだ。これからも繰り広げられるだろう地球史をめぐる論争を、リアルタイムでフォローしていくための起点的一冊になる。
スノーボールアース仮説に異議を唱える科学者たちの反論の努力までもがきちんと取りあげられているところがこの本の優れた点じゃないだろうか。科学者間の感情的反目も論争の重要な駆動力になっていたということや、反論者の出した証拠が同時にスノーボールアース仮説の新たな証拠にもなりうるという再反論に至る経過なども科学論的な含蓄のあるエピソードです。
ただやはり、先行レビュアーの方も仰ってましたが、地球の凍結状態が生命の大進化の引き金を引いたのではないか、というそもそもの(そして本書の)セールスポイントがほとんど論じられていないような気がするんですが。おそらく、この主張は進化生物学のコミュニティではまだ市民権を得てないのかもしれません。生命進化と全球凍結の関係がよく分らなかったので一点減点。