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彼方なる歌に耳を澄ませよ (新潮クレスト・ブックス)

価格: ¥2,310
カテゴリ: 単行本
ブランド: 新潮社
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深い味わい ★★★★★
スコットランドのハイランドからカナダへ渡った移民の物語。場面や時があれこれ入り乱れるので決して読みやすくはない。しかし、その抑制の効いた穏やかで、しかし奥行きと広がりを持つ独特の文体は、まるで馥郁たる香りを放つスコッチウィスキーのような芳醇な味わい。ものすごく魅了されました。何度も読み返したいと思う作品で、そのように思える作品には滅多に出会わないため、この作品に出会えて本当に幸せでした。

なお、巻末のスコットランド移民の歴史の解説は先に読んでおいた方がよかったと思いました。物語の中で具体的な史実に触れる箇所が少なくなく、予備知識があればより物語を深く味わえることと思います。
至高の作家マクラウド ★★★★★
見たこともない、行ったこともない異国の話なのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう?
ここに登場する人たちは、ぼくの心の奥底にある特別な感情を呼び起こす。
それは家族に対する愛、積み重ねてきた歴史への敬意、人間としての誇りなどであり、忘れがちだが絶対誰の心にもある感情なのである。
18世紀末にスコットランドからカナダに渡ったハイランダーの一族。
けっしてなだらかでない厳しい家族の歴史なのだが、そこには一族の結束と誇り、素晴らしい思い出があった。

マクラウドが13年かけて書き上げたこの本を読むと、心が掻き乱されるにもかかわらず、優しい気持ちになる。
彼らが歌うゲールの歌。それは、心を結ぶ不思議な力を持つ。
歴史を重ねても変わることなく続く歌。それは血は水よりも濃いということを思い起こさせてくれる。
けっして忘れてはいけないこと、疎かにしてはいけないこと。一族で築きあげた歴史が、幾多の思い出を伴ってよみがえる。
いつまでも終わって欲しくない物語が終わってしまった。
マクラウドは至宝の作家だ。
密度の高い作品 ★★★★☆
各章がまるで連作短編小説のような密度の高い作品です。
スコットランドからカナダの島に渡った一族の物語。誇り高く、結束し、愚直なまでにひたむきで、しかし自然は厳しく、失われる命はそれを感じる間もなく失われてゆく。
主人の死を受け容れられず、新しく来た住人に射殺されてしまう犬の話が象徴的。
惜しむらくは、もう少しスコットランドやカナダの歴史的背景を知っていたら、もっと深く理解できたかもしれない。それが星一つ引いた理由です。作品のせいではありません。
獲得と喪失 ★★★★★
人間は獲得と喪失を繰り返して生きてゆくのだ、と考えさせられる物語。
正確には経験と忘却、と言った方が正確かもしれません。
厳しい冬が訪れる島で生きてゆく家族と、動物たち。突然訪れる死。人間が生きてゆくことはこういうことなのだ、と胸に染みわたってゆきます。
そこで育った子供たちが島を出て、現代的な生活の中でふと思い出す甘やかな痛みをともなった記憶。
大人になってしまった今ではいつのことだったか、曖昧になりつつもより鮮明になってゆく感情。そして絆。
愛情は降り積もる雪のように深く柔らかく、悲しみは海からの冷たい風のよう。
主人公が淡々と思い出す半生は私たち読者にも共感できるところがあるでしょう。
そして著者であるマクラウド自身がカナダ東に位置するケープ・ブレトンで育っているので、描かれる人々の生活は潮や鉄、針葉樹の香りが漂ってくるかのように写実的です。彼のスコットランド・ハイランダー(スコット・ランド高地人)における深い造詣も目を見張るものがあります。失われつつある血と生活。ポール・ギャリコの「スノー・グース」がお好きな方は気に入るかもしれません。