ジャンルは「佐野元春」
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佐野元春は基本的にかぶれやすい人だと思う。
言い換えればとってもピュアな人だ。
だから時に他のアーティストから受けた影響をびっくりするほどストレートにアウトプットしてしまったりもする。そんな佐野元春が一年間もNY暮らしをすればこういう「ニューヨークかぶれ」の作品ができるのは必然だ。
ラップを大胆に採り入れたスタイルのインパクトゆえか、おもにリズム面での革新性とともに語られることの多いアルバムではあるけれど、その陰(?)でメロディーも大変に充実しているということは見過ごされがちだ。ことに「サンデイ・モーニング・ブルー」「シェイム(君を汚したのは誰)」という2曲のバラードは、代表曲として挙げられることがほとんどないのが不思議なほどの名曲。広がりを持った前半と性急さを感じさせるサビとの対比が見事な「トゥナイト」もいい。そしてラストを飾る「ニューエイジ」。ともに印象的なラップと歌メロがお互いを引き立てるかのように融合している。きれいごとではない前向きさを掲げたこの希望に満ちたナンバーで締めくくることによって、本作はより引き締まったものになっている。
全8曲ーー今ではあまりお目にかからなかったこのサイズだけどもの足りなさは微塵もない。これに1曲たりとも足しても引いてもいけない、とすら思える。2004年に出た20周年記念のアニヴァーサリー・エディション(DVD付)では収録曲3曲のリミックス・ヴァージョンが追加されているけど、やっぱり要らないね。それほどこの収録各曲、そしてその集合体こそが『VISITORS』なのだと思える。
大いにNYやラップ・ミュージックにインスパイアされたという出発点を持ちつつも、結果的には「これぞ佐野元春」と言える作品になっている。これだから佐野元春は侮れない。ある特定のスタイルを模しているように見えても、出来上がってくるものは完全にオリジナルなものにしてしまうんだから。
気持ちのいい音・快感を感じる音の宝庫
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ドラムの音、絶品ですね。このアルバムで鳴っている音がとにかく快感。このアルバムのドラムの音を基準に以後25年ほかの音楽のドラムの音を聴くことになってしまった。いいお寿司屋で本当の味を知ると、もう回転寿司はきつい。正直そのカテゴリーでVISITORS を超えたものはいまだにない。
そしてドラムと同様快感のパーカッション群。野太くスタイリッシュなベース。クレージーで理知的なギター。どれをとっても人間の耳を悦ばせる音の宝庫。
このアルバムは今まで生涯一番リピートしたと思われるアルバムです。歌詞やメロディで情感をくすぐられるアルバムではないんだけど音そのものを楽しむことができる、楽しみ続けることが出来る。もしかしたら他の音楽が聴けなくなるくらいレベルの高い音楽ではないかとまで思う。
実は僕佐野元春さんの熱狂的なファンというわけではないんです。ないんですが一番好きなアルバムは何ですか?と誰かに聴かれたら佐野元春のVISITORSですと答えると思います。
あまりにもいつも聴いているのでこのアルバムは懐かしいという感情は一切なく、これを聴いて学生時代を思い出すなんて言う事はない。僕にとっても不思議な一枚であります。
ロックとは異端であり、先端である事。最高の問題作・異色作にして、最高の傑作。
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「SOMEDAY」の大ヒットにより、一躍シーンの兆児となった佐野元春は、
国内の喧騒を離れて単身ニューヨークへと渡る。
当初の観光的な小旅行の予定が、
この世界と自分がどう対峙して生きるのか、という切実な問題に直面する
孤独で過酷な1年以上の長期滞在に変わろうとは、
当の本人でさえ予想していなかった…。
楽天的な観光気分(「TONIGHT」)は、
やがてNYという都市が求める<個人の存在価値>という問題意識に変わってゆく。
それに拍車をかけたのが、
現地で初めて出来た友人の突然のドラッグ死(「SUNDAY MORNING BLUE」)だった。
この街では、結局自分は異端者・訪問者・他者(「VISITORS」)に過ぎないのだろうか…?
アメリカ文化への<憧憬>が、
世界に対する摩擦・違和感という痛みを伴った<自己認識>へと変質し、
だからこそ新しく揺ぎ無い自分を築いていくんだ、というアンセム(「NEW AGE」)
へと覚醒していくドキュメント。
あまりにも早過ぎたヒップホップの導入、
メロディアスであることを放棄したかような徹底したリズム主義、
サビよりもそれに続くリフの方が重要な意味を持つかのようなストイックな音作りが、
「SOMEDAY」路線のポップでキャッチーなロックを期待した一過性のリスナーを根こそぎ切ってしまった。
当時の最も熱心なファンですら、本当の意味で本作の価値に気づいていた人間は少なかったのでは。
しかし、この作品を創れた佐野元春だからこそ、とその支持層を強靭にしたことは間違いない。
その意味ではこのアルバムこそが、現在までのキャリアを支える礎になったと言っても
決して過言ではないだろう。
ヒップホップ=ストリートカルチャーがメインストリームへと上昇していく世界最先端のエネルギーと、
日本語ロックの革命児との邂逅が生んだ、エポックメイキングなケミストリー。
佐野元春の全作品中、最も再評価され、聴き継がれるべきアルバムだ。
今聴いても、《新しい》です。
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日本で初めて、《アルバム単位》でヒップホップに挑戦したのは、《佐野元春》氏のこのアルバムだと思います。今のヒップホップの、いわゆる《韻を踏む》のとは違うやり方で、《日本語のリズム》を追求している所が、面白いです。日本語ラップの、いわゆる《韻を踏む》世界の素晴らしさも分かるのですが、それ以外にも、また違う《日本語ラップ》の発展性があることを指し示しているように、今聴くと、思います。意外と、現役のヒップホップ世代が聴いたほうが、新しい発見のあるアルバムかも知れません。
佐野元春、異色の大傑作
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1983年、単身渡米しその後発売された4枚目のアルバムです。
ヒップホップ、ラップに影響された曲もあるのですが、全体的にみると
ファンク、バラッド、ニューウェーブ的なロック、ポップスなどの幅広いジャンルで
構成されています。所々時代を感じるアレンジもあるのですが、80年代お化粧過多なエフェクトも抑え気味で、シンプルですっきりと聴けます。特に力強いリズムと歌詞、曲構成が素晴らしいです。
全8曲、好き好きはあるかもしれませんが、ほぼ捨て曲無し。
「TONIGHT」「SUNDAY MORNING BLUE」「VISITORS」「SHAME」
「COME SHINING」「NEW AGE」辺り、とても好きです。
「VISITORS」はコード2個、メロディもほぼ変化無しの曲。このような曲を歌い上げることのできる人、そうはいません。
「SHAME」の曲構成も不思議。ジャンル分け不明の力強いメッセージを持つ曲です。
歌詞の節々に単身で生活し孤独だけれどもタフな20代後半男の心情がちりばめられています。
「悲しみの果てに優しくなるほど優雅な気分じゃない」
「雨あがりの街に 灯がともる 霧に包まれた暗闇 いくつものヒューマンクライシス 君はかくしきれない ニューヨーク」
「すべてが何となく無意味に見えてしまう時 時々 凍てついた心を君にかくしてしまうのさ なぜだろう? なぜだかわからないけれど」
「夜が終わるまで誰かを抱きしめていたい 夜が終わるまで誰かを抱きしめていたい 少しづつ心に哀しみの雪が積もる クロスワードパズル解きながら今夜もストレンジャー これは君のことを言ってるんだよ」
「休みがとれるほどおだやかな世界じゃない やがて若くてきれいな君の夢も アンティークなリズム奏で始める この街のウィークエンドは今夜もタフに揺れている」
「昔のピンナップはみんな壁からはがして捨ててしまった」
「冬のボードウォークにすわって すべての終わりを待ちながら ブルーな恋に落ちてゆく」
かっこいい。
このアルバムは佐野元春氏の中でも異色で彼の以前、以後のどのアルバムにもこういったテイストの物はありません。氏のアルバムには他にも傑作が多いのですが、この時代感覚と歌詞の世界は唯一無二です。都会生活の孤独に耐え切れなくなった時、このアルバムを聴いてみてください。