当事者から見た「被差別部落の現在」
★★★★★
自らも被差別部落出身の元新聞記者ライターの書いた、当事者から見た「被差別部落の現在」。「部落差別を直接的に経験したことはない」という著者が、変わっていく被差別部落の現状・現実を前に、「私以外の部落民は、部落をどのように捉えているのか」という関心に基づいて、100人以上の被差別部落出身者にインタビューを行ったルポルタージュ。
著者は、差別の悲惨さと根絶の難しさばかりを強調する悲観論と、「差別はもうなくなった」とする楽観論との「中間」を記したかったのだという。本書で取り上げられている主なテーマは、結婚差別・就職差別、部落産業、部落解放運動・同和教育、といったところだが、部落出身者それぞれにとっての「部落(出身者であること)の意味」が実に多様であることを伝える内容となっている。
部落問題に関して最初に読んだ本が本書だったのはラッキーだったのではないかと思う。差別問題に限らず、既に政治的論点となってしまっているような問題に関する本の中には、互いの立場からの主張の揚げ足とりに終始するような本も多く、関心をもった者をかえってその問題から遠ざけてしまうような本も多いように思う。特定の立場を擁護したり批判するような本ではない、このような内容の本が文庫化され簡単に手に入るというのは素晴らしいことだと思う。
「〜青春」というタイトルから、10〜20代の若者の声ばかりを集めたような本を想像していたが、実際に登場する人物は10〜50代くらいとわりと幅広い。アッケラカンとした人が多く、差別問題にまとわり付きがちな暗くジメジメした雰囲気が本書には全くない。
本書には、過去数百年に渡る被差別部落の歴史に関する記述はない。また、政治的論点としての部落解放運動や同和行政について議論している箇所は少ない。個人的には、今度は逆に「差別する側」に焦点を当てたルポも読んでみたいと思った。
色々な立場から
★★★★★
本書には、実に様々な立場の人へのインタビューが記されている。
部落に生まれ、実際に、自分や知人が差別を受けたことのある人。
部落に生まれたが、差別とは無縁の生活を送っている人。
部落出身ではないが、部落問題に関心を持っている人。
教師として、同和教育に取り組んでいる人。
留学生や在日という立場から、部落問題を見つめている人。
そして、差別は悪いと言いながら、気づかぬうちに部落出身者を差別している人も。
部落差別については、色んな人が、色んな意見を述べているが、これだけ多様な立場の人から、本音に近い発言を聞き出し、一冊にまとめているのが秀逸である。
筆者も部落出身者で、自身は差別を受けたことがないと述べているが、差別される「かもしれない」という恐怖や苦痛を考えなければならない現状が、部落問題の根深さを物語っているように思う。
今後、差別がなくなっても、差別をした、差別をされたという歴史は消えない。だから、「寝た子を起こすな」という議論も、本書の前では文字通り寝言になるだろう。「寝た子を起こした。さあ、これからどうするか」と問題を筆者から突きつけられたような気がした。
逆差別の部落
★★★★☆
部落について私が強く意識したのは数年前に大阪に転勤してからです。それまでは地元の学校で部落教育を受けたこともなく(受けたかもしれないが記憶がない)なんとなく昔はそんな差別があったのかなっという感じのものでしかありませんでした。しかし関西では今でも色濃く部落線引きがされています。「あの辺りは部落だ」「あの顔は部落顔」などといった会話をよく聞くことがありました。部落についてほとんど知識のなかった私にとっては、実際にそのような地域があることやその中で暮らす人がいることについてある意味すごく興味を持ちました。実際に京都駅の南側に広がる部落地区を歩いてみて、改良住宅の中から出てきた子供たちをみてなんとなく可哀そうだなと感じたことを覚えています。しかし関西で部落問題が残っているのは明らかに部落を利用した逆差別産業が多いことも理由の一つだと思います。実際に部落団体からそのような圧力が多いことも関西の特徴だと思います。本書では部落についての悲惨な歴史を語るのではなく、部落の今が以前と大きく変わりつつあること、そして逆差別的な優遇措置がいつまでもとられていることに対する危惧も記されており、現在の部落問題を的確に捕えていると思いました。
当たり前ですけど、いろんな人がいろんな風に考えています。
★★★★★
「青春」という文字に惹かれて買いました。著者もあとがきで述べていますが、「活字にしろ映像にしろ、そこに描かれている部落は、差別の厳しさ、被差別の実態ばかりが強調されていて、(中略)ひとことで言うと「暗い」のだ。」という部落問題を巡る報道のイメージとは異なる世界を教えてくれるかもという期待を感じたからです。
予感は的中しました。本書には差別を受けた経験のない部落民も経験のある非部落民も、同和教育に疑問を感じている部落出身の教師も、同和教育が重要だと力説する調査会社の社長も、さまざまな人たちの部落差別に対する考えが書き留められています。一方的に差別を糾弾するわけではなく、1990年代後半の部落差別の状況を可能な限り正確に記録することを目的としているように思えて感心しました。
著者自身も部落出身であり、実名を公表することで何らかのリスクがあるかもしれないと考えていましたが、迫害や差別を受けることは皆無だったそうです。少しは日本がよい社会になっているのかもしれませんが、何よりもこの本の魅力がそうさせたという気がしてなりません。
こうしたテーマの売り出し方
★★★☆☆
この文体で、この内容の本を、この出版社が出したところがミソ。
この分野に少しでも関心がある人なら誰でも知ってる内容を、
多くの読者に伝えた功績は大きいと思います。
著者の力量もさることながら、こうやって売り出した編集者サイドの勝利か。